自分を生んだのは母親だと転嫁するのはたやすい。これは自分の人生だと叫ぶのもたやすい。しかし同時にまた自分には、遠い太古の人類の祖先の悲しみと怒りを受け継いだものの一人としての自覚もあって、それゆえに自分の生命は自分のものではないような気がしている。自然環境に対するものか、異星人に対するものか、孤独に対するものか、宿業に対するものか、人類は何者かに対して戦い続けている。勝利の向こうにあるものは、精神の高揚かも知れないし、安らぎかも知れないし、暗黒の地平かも知れない。いずれにしても、その戦う意志に対して、誠実に応えたいと感じている自我がある。たとえ自身は不健康な因子であったとしても、作用することは放棄できない。