友人や知人とのあいだで「本を読まなくなった」という会話が増えてきた。体力が衰えて根気が続かなくなったとか、ついスマホに時間をとられてしまって、など理由はさまざまのようだが、在宅ワークが増えたことの影響も大きいのではないかと思う。
北宋の文人・欧陽脩(1007-1072)は、文章を練るのに適した場所として三上(馬上、枕上、厠上)をあげているが、これは読書に適した場所としてもあてはまるだろう。とくに「馬上」といえば、いまの日常では馬に乗る機会はほとんどなくなってしまったが、これを公共の電車やバスに置き換えてもいっこうに差し支えがないわけで、移動する車中こそはまさに「馬上」、読書が格別に楽しくなる三上の一つだったはずなのだ。コロナ禍は去ったけれども、在宅ワークは定着してしまった。たまに出社する日はあっても、以前に比べれば通勤電車に乗る時間はおおきく減って、その分だけ本を読む場所を失っている。だから休みの日には、ひたすら「馬上」の快楽を求めて、ただただ電車に乗りたくなる。
……と、ここまでは書いたが、わざわざ一千年前の王都から欧陽脩を連れて来なくても、通勤電車の中での読書は楽しいものだということは皆知っている。
ところで、この「三上」はスマートフォンを手に取りたくなってしまう場所でもあるのではないか。スマートフォンばかり触っているとものを考えなくなりますよ、という警告をよく耳にする(目にする?)が、つまりこれはどういうことなのだろうか?