貸本屋に行く途中で、かつてのユーザーだった女性に遭遇する。一瞬名前が出てこなくて声をかけようか迷いつつ、曖昧に彼女の後を追い始めたので周囲から不審がられもしたが、じきに思い出すことができたので話しかけてみる。どうやら彼女も気がついていたようだが、向こうは向こうで年配の方らしく遠慮していたらしい。近況など伝え合いつつメールアドレスなど確認して分かれる。

貸本屋で 『銀河英雄伝説』 と 『ベルサイユのばら』 の続きを借りる。天候の話などひと通りの予定を消化し終えて店を出る。そのまま床屋の前まで行って店内を覗いてみると、散髪中の客の姿も、断髪中の力士の姿も無く、常駐しているABC3人の散髪執行人はいずれも退屈そうに新聞を開いたり、テレビを見たり、札束を数えたりしている。期待するA氏に執行してもらえる状況にあると思われたので、決意の扉を押し拡げて中に入る。すぐにA氏が散髪椅子の一つの側に立ってこちらに合図する。周囲に促されるまま玉座に腰を下ろすと、最初にA氏が我が耳元へ、過日は失礼致しました、とそういえば先週は満席で断髪を断念したことへの謝辞をここで慇懃に述べてきたので、許す、とだけ答えて後は彼の好きにさせる。

理論上では80mも伸びていたはずの髪をすっかり土に還して、心身財布ともに軽やかに店を出るともうすぐそこまで夕闇が押し寄せてきていて、自動販売機も自転車も自分探しも自由主義社会もそのアイデンティティを喪いつつあった。急いで自宅に引き返して、荷物をまとめてナイト会員としてスポーツクラブに登城する。新しいランニングマシンに備え付けのテレビモニタを見様見真似で操作して、例えば、走行する車の運転席から見える風景だけを放映するような、そんな番組があればこんなときには歓ばれるかも知れないな、などと考えながらBSにチャネルを合わせて 『モンスターズ・インク』 など観ながら走る。1度は観たことのある作品なのだが、どうやら細部は忘れてしまっているようだ。しばらく面白く鑑賞していたが、映画が佳境に入ったところで、走り疲れてきたので渋々モニタを消してマシンから降りる。映画の続きを観たい気もするが、もう半分以上も観てしまったので改めてビデオを借りる気にもなれず。あれこれ結末を想像しながら帰って来る。帰宅して玄関を開けるなり 「にしおかすみこ出てるよーっ!」 という妻の声が聞こえてきたので、慌てて居間へ走って行ってテレビの前に正座する。テレビに向かって走ってばかり。