朝6時頃、もう30分も目覚まし時計のベルが鳴りっ放しであることに思い悩んでいた。我が家の目覚まし時計とは音が違うから隣家に違いない。一度だけ、窓を開けて外を覗いてみたところ、やはり隣から聴こえてくるような気がしてならない。まだ眠り足りないので、ベッドに横になったまま、眠るでもなし、起きるでもなし、その時計のベルを聞いていた。なぜ隣の家の人はこのベルの鳴るのを止めないのか? 考えられる理由は以下の15個である。
- 家族全員で軽井沢に旅行に出かけていて不在
- 家族全員が魔女に呪いをかけられていて深い眠りに堕ちている
- 家族全員がどこか他所の家の目覚まし時計が鳴っているのだろうと勘違いしている
- 家族全員が 「あと5分〜」 と布団のなかでぐずぐずしている
- 家族全員が目を開いてはっきりとした意識もあるのに、金縛りにあって手足を動かすことも叫ぶこともできない
- じつは家族は室内ですでに何者かに殺害されていて、犯人は重大なミスをおかした
- 昨晩一家心中をはかったのだが、結果として父親だけが死に切れず、いま目覚ましのベルを聞きながら泣いている
- 家族全員でソファーに腰かけて紅茶など飲みながら目覚まし時計のベルの音を楽しく鑑賞している
- じつはこのベルの音はポルターガイスト現象で、いまタウンページに載っている霊媒師を電話で呼んだところ
- 時計の構造が非常に複雑なためベルを鳴り止ませる操作に30分以上かかっている
- 目覚ましを止めるために必要なパスワードを忘れてしまいさっきからいろいろ試してみているがダメ
- もちろん新しい目覚まし時計にはベルを止める機能などありませんが、それが何か?
- 隣の家族は今朝から目覚ましのベルは止めない主義になった
- 目覚まし時計が鳴り続けていることをおかしいと思っている自分のほうがおかしい
- じつは自分の幻聴
いったいどの理由によって目覚ましの音は鳴り止まないのだろうか、ベッドの上でうつらうつらしながら考えていたら、我が屋敷で働く大勢の奉公人のうちでも取り分け美しくて勝気な性格の少女が、メイド服のうえに肩掛け毛布を羽織り、明かりを灯した米国製ランタンを手に提げて、「私、ちょっと見て参ります」 と言ったきり霧深い庭園に飛び出していったので、「気をつけて。そそうの無いようにね」 とその後ろ姿に優しく言葉を投げかけながら、ため息などついていたら、ふと目が覚めて、それからすぐに目覚まし時計のベルが鳴り止んだ。不思議。