近ごろ小乗に凝っている妻が、図書館で 『チベット/デプン寺院の大声明』 というCDを借りて聴いているのだと言うものだからつい笑ってしまった。自分も以前に借りたことのあるCDである。しかもちょっと聴いてみたら、低い唸り声が始まってやがて延延とお経らしきものを唱えているだけなので、すぐに聴くのをやめて放り投げてしまったやつである。妻は聴覚からも仏陀を感じたいと思ったらしい。このCDを我慢して聞いているのだという。

しかし、原始仏教の世界に浸りたいなら、やはりインド音楽である。さらには、インド音楽に影響を受けたビートルズのナンバーが親しみ易くて良いだろう。まずはシタールの音がじわじわと湧いてくる 『Within You Without You』 や、絢爛な雰囲気の 『Love you to』 、ついでにカモメがキューキュー鳴いている 『Tomorrow Never Knows』 も根方でシタールがビヨビヨ鳴っていたはずだ。歌詞も思わせぶりだしな。すでに西洋世界に馴染んでいる我々が、東洋的なものを理解しようと思ったら、むしろ西洋人による解釈を参考にするのが早いように思う。それからじっくりと、東洋的な精神を呼び覚ませば良い。

パソコンには 『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』 の音楽データはあるがCDに焼いたものがない。とりあえず、押入れから古いテープを引っ張り出してきて妻に聞かせてやる。ほらほらじわじわ始まるよ、ほらほら太鼓がパタパタ言うよ。自分も好きな曲である。とくにジョージ・ハリスンの歌声は、梵天の無線連絡のように聞こえることさえあるからな。ところが、ジョージが歌い始めたところでテープの回転がおかしくなってきた。どうした。We were talking about the ……どうした。宇宙だろ? オレたちを取り囲む空間と、幻想の壁に身を隠す人々のことだろ? テープが止まってしまった。録音してからまだ25年しか経っておらぬぞ。どうした。しっかりしろ。再生ボタンを何度か押してみるが、ちょっと歌うとすぐやめてしまう。ジョージ・ハリスンも老いたものだ (ていうか肉体はもう亡くなっているが)。面目丸つぶれでそわそわするオレさまの横で、妻はニコニコしている。諸行無常だからな。仕方が無く諦めて、いずれPCからCDに焼いてやる約束をしつつ歌詞だけを読ませてやった。

しかし、25年前のテープがもう聴けないとはいささかショックである。メタルテープだったのに。