激しい雨の音で目が覚めた。妻が夢遊病者のようにベッドを抜け出して、開いている窓を閉める。そしてまた寝る。寒くなりそうなので、タオルケットをかけてやる。自分もまた寝る。

次に目が覚めたのは10時過ぎだった。12時間も眠ってしまった。まだ小降りだが雨が続いている。公衆電話のところまで行く気にならない。

朝食をとってから、少し新聞を読む。

  ■障害者の男性、孤独死(水道局、衰弱でも給水止めたまま)
  ■ネットで旅券発行−今年度で廃止(開発費20億、1件あたりの経費1600万円)

うーむ。世の中、利用者不在の過剰サービスばかりであるかと、リサイクルの新聞紙のふちを小刻みに震わせながら悩む。

今回のように自然災害で自宅の電話が故障したときに、携帯電話を持たない人は外の公衆電話を使ってNTTに連絡しなければならないのだが、当然のように回線は混んでいるわけで、その場合、ずっと電話の前で掛け直す機会を窺っているわけにもいかず、折をみて何度も公衆電話のあるところまで通わなければならなくなる。近頃はその公衆電話の数も減ってきているので、場合によっては自転車で5分、10分のところまで移動しなければならないこともあるわけだが、自転車に乗れないお年寄りなどは、こうしたときはどうするのか。近所づきあいができている人なら、あるいは隣家で電話を借りることもできるだろうが、そうでない孤独な人や身体に障害を抱えている人はどうするのか。たとえ本人が困っていなくとも、遠くの地域に住む家族や知人にとって困る場合もある。

例えば、NTTはすべての電話回線を定期的に検査して、受話器がはずれた状態のステータスを示す電話番号をリストアップし、その情報を特定の福祉団体に公開するサービスをしてはどうか。福祉団体は該当する電話番号の所在地をこまめに訪問し、実際の電話機の状態を調べるなどして、電話機の故障の早期発見に協力する傍ら、援助を必要とする人との接点を得て福祉活動を充実させていくのである。あーまてまて。個人情報保護の視点から問題があるかも知れないな。それにしてもセキュリティと福祉とは相反するものだったのだろうか。

知らない人がタウンページを配りにくる。「電話が通じないのだけれど」 と相談してみる。オレは配達するだけですからNTTに聞いてください、と逃げられる。まるで他人事だよ、と妻に言いつけると、当然だと追い討ちをかけられる。雨が降っているのが何もかもいけない。113 をかけるために公衆電話のところまで自転車を漕ぐのがとても億劫に感じられる。

昼過ぎに雨が止んできたので、自転車を漕いでGEOへ行く。 『TRICK』 をまた1本借りる。それから、コンビニへ行って、その軒先の公衆電話から 113 をコールする。繋がりそうな予感を信じて、じっと受話器に耳を当てて待ち続けてみたら、何度目のメッセージを聞いた後だったろうか、ふいに唐突に、まるで文学的に知らない男性の声が聞こえてきた。ついにNTTの故障係と連絡が取れたのである。はぐれメタルに出逢ったときのような、慎重に焦りたい気分である。とりあえず丁寧に状況を伝えると、時刻は約束はできないが現調に来てくれるという。時間が定まらないのでは困るので、さらに相談してみると、ケータイは持っていませんか、と聞かれた。持っていないから困っていることをはっきり伝える。午後4時までは来ないと約束してくれたのでそれで妥協する。

すぐに帰宅して、NTTが来るまでに、妻は川へ洗濯に、オレさまは山へ柴刈りに出かける。午後4時までは来ないはずだったが、午後3時頃にNTTの人がひょっこりやってきた。まあ、いいか。遠方の地域から応援でやってきたらしい。早く着いてしまったので連絡しようと思ったのですが電話が繋がらなくて、と笑っている。こちらも笑ってしまう。

問題の箇所はすぐに見つかった。ガス会社が設置したらしき不良部品を外したらすぐに繋がるようになった。あとはガス会社に連絡しておいてくれという。ややこしい。電話はすぐに復旧して、修繕費用もとられなかった。NTTの人を見送って、怒涛の3連休が終わろうとしている。人生は問題解決の連続である。我々はつねに情報収集能力と、問題解決能力を試されている。何を与えるかは神様の問題であり、どう生きるかは人間の問題である。

電話が再び開通して、陸の孤島でなくなった我家の居間で、妻は瑠璃色のビーズを連ねてネックレスをこしらえ始めた。小学生並に結構上手い。オレさまは昼間に借りておいた 『TRICK』 のビデオを観る。第8話〜最終話までが収録されていた。ここへきて、本流であるべきストーリーがやや腰砕けに終わってしまったが、オレさま的には全然OK。こんなに好ましいテレビドラマがあったとはな。不勉強を反省したい。まだ続編もあるようなので、また借りてきて観ようと思う。おまえたちのやっていることはすべてお見通しだ!(←言ってみただけ