本を読んだり、近所をブラブラしたりしていた。

駅前のショッピングモールの入り口で、赤とんぼがじたばたしているのを発見した。
透明なガラス扉の内側で、外へ出ようと必死で羽根を動かしながら、
ガラスに両の複眼を擦りつけている。

1度は見て見ぬフリをしたのだが、5mも歩いたところで思いとどまり、
ガラス扉まで引き返して、トンボをじっと眺めてみたが、やはり放っておくことに
決めて、また歩き出したのだが、やはり5m地点で思い直し、引き返して、
トンボの羽根をそっと指でつまんで外へ逃がしてやった。

しかしもし、あのトンボの胸に遺恨が残り、しかもトンボには珍しく人望が高く、
後に沢山の昆虫を集めて組織を作り、昆虫による人類滅亡計画が企てられて、
昆虫対人類の凄まじい戦争が始まったりしたらその責任はすべて、無分別にもあのトンボを
助けてしまった自分に帰する。とりかえしのつかないことをしてしまったのではないか、
と後から心配になったりもしたのであるが、そもそもガラスに頭を擦り付けて羽根を
ジタバタさせるような粗忽者に、そんな大事業をやってのけるだけの器量はなさそうなので、
多分大丈夫だろうと思う。