持っていた折りたたみ傘をしぶしぶ開いて駅に向かって歩いていたら、駅に着く前に夕立がやんだ。雨は俄かに始まって俄かに終わった。ふたたび夕陽がさして、歩道も看板も黄金色に光るし、青空には雲が白く発達している。暖かい雨の匂いが立ち上ってきて、少し前を歩く犬を連れた男性のサンダルの音が聞こえる。あー、この景色はきっと美しいのだろうな、と思った。思ったけれども素直にそう感じないのは、きっと自分がこの景色のなかに暮らしていて、日々の雑事に追われているからなのだろうなと思った。

絵画や風景写真を見て美しいと感じるのは、いま自分が抱えている雑事が、そのなかの世界には無いからなのかも知れない。あるいは、日々の雑事から解放されてさえいれば、世界は常に美しくあるものなのかも知れない。これは仏教だな。