雨が降るからと思って、自転車には乗らず、手には雨傘を持って、庭先の海棠の鉢植えを庇の下まで引き寄せてから出かける。貸本屋に入ったら、店長の横で、小さな女の子が店先で遊んでいる。小さな玩具を小さな指先につまんで、ねえこれみて、とか言っている。店長はニコニコしながら、後でね、とか答えている。可愛い少女がこちらをきっと睨む。また店長のほうを見上げて、ねえお客さんはまだ帰らないの、とか言ってやがる。じつに可愛らしいお嬢さんである。せっかくなので、ゆっくり立ち読みなどしていくことにする。少女のほうはしかし、すぐに興味を失った様子でさっさと一人で遊び始めた。完全にこちらの負けである。負けたので床屋に行って髪を切る。もう彼女と同じ土俵にはあがらない。雨は降らない。何時間待っても雨は降らない。傘を持つ手がうらめしい。帰宅して、スポーツクラブ。それから妻を伴って外食。まだ雨が降らない。