早起きして、妻と連れ立って鎌倉へ行く。

西行の歌を思い出したあたりから、小林秀雄の短文を読み散らかしている。
鎌倉へ向かう電車の中でも少し読む。小林秀雄といえば、鎌倉なのである。

そういえば、一昨年の9月に東慶寺を訪ねた折に、小林秀雄の墓に白州某という
卒塔婆を見つけたのだったが、その後、小林秀雄の長女が白州家に嫁いだのだった
ということを知った。その嫁ぎ先の白州家が、白州次郎の親類かどうかまでは
分からないが、たぶんそうなのだろうと思う。

オレさまが、北鎌倉で降りて東慶寺小林秀雄に挨拶に行こうか、それとも
このまま鎌倉まで乗っていってしまおうかと悩んでいるあいだ、妻は列車の
一番前に仁王立ちして、運転手と一緒に進行方向を真っ直ぐに見守っていた。
こんな風にして、オレたちは十数年のうちに何度も鎌倉へ通ってきた。

鎌倉駅に着いたのが何時だったか分からないが、珍しく早めの午前中だった。
小町通りを歩いているときにも観光客が少なかったので、まだ10時くらい
だったのではないかと想像する。古本屋や、古民具屋をぶらぶら見ながら歩き、
いつものように、途中のミカドコーヒーで休憩。胃の調子が悪いのでコーヒー
ではなくてソフトクリームにしようかと迷ったが、やはりコーヒーにする。
とても美味しい。

鶴岡八幡宮を参拝する。結婚式を2組も見た。本宮までの石段の途中にある
小さな桜の木がもう咲いていて、外国人観光客がその前で記念写真を撮っていた。
ついでに、結婚式の白内掛けが珍しいようで、社殿の中の花嫁にまでフラッシュを
浴びせていた。うーむ。まあ、いいのかもな。

おみくじを引いたらオレさまは 「吉」 だった。体調悪いのに。
妻のほうは 「凶」 で、木に結わえつけながら、いまいましそうにしている。
おそらく他所の神社で 「吉」以上が出るまで、お御籤を引き続けることを
やめないだろう。

若宮大路を海のほうへ下る。いつものコースである。
途中のパン屋でくるみパンを買って、つまみ食いしながら歩く。
天気は良いし、梅や桜がところどころに咲いているし、くるみパンは香ばしいし、
春の予感に心が躍る。

レース(といっても競馬ではないが)専門店など覗きながら、オレさまの心の
故郷である八雲神社を訪ねる。ここでもお御籤を引いたら 「吉」 だった。
体調悪いのに。どうやら妻も 「吉」 で、今日はもうこれ以上お御籤を引かない
ことになった。

由比ガ浜に出る前に、コンビニでお酒を購入。妻はハイネケンの缶、
オレさまは赤ワインの小さなボトルにした。少しでも健康そうなモノを選んだ
つもりであるが、そもそも昼間から飲もうという料簡が間違っているとは
思わないのである。

海はいつものとおりだった。波に太陽が反射して眩しかったが、波は穏やかで、
サーフィンする人も、犬を散歩させている人も、子供を散歩させている人も、
あきらかにゲイと思われる男女……ではなくて男男も、みな穏やかだった。
ただ、カラスとトンビだけは落ち着かない様子だった。三機のゲイラカイト
空中でブイブイ言わせていたのである。

夫婦で乾杯したのち、光る海を眺めながら少し話し込む。
水際に転がっているレンガが、波に洗われて行ったり来たり、砂にもぐったり、
また出現したりした。オレさまはワインを半分残した。

1時間ほど話し込んだのち、空腹だったことを思い出したので、
海岸通り沿いのガストに入ってランチを食べた。午後2時くらいだったと思う。
30分ほどで食事を済ませて、また若宮大路を引き返す。
ふと思いついて、少し寄り道して 『小すず』 でわらび餅を食べた。
ここのわらび餅は本当に美味しいですね。

鎌倉駅を離れて、池袋まで戻ってきたのは、夕方5時頃だった。
習慣的にLIBROに寄ってしまい、偶然にも探していた本を見つけてしまった。
まさか店頭で見つかるとは思ってもいなかった。お金ないよ。読む時間ないよ。
こういう風に予定が狂う事を、喜んで良いのか、どうなのか、うーむ、
ニヤニヤしながらレジに並ぶ。