わが身に何度めかの『TRICK』ブームが訪れているわけだが、第1シーズン全10話を観終わったところで、いまは少し落ち着いている。まだ琉球型のイントネーションが尾をひいているが、まあ、いいか。その一方で、南西方面からじわじわと芥川龍之介熱なども昂じてきており、部屋で缶ビールを片手に、例の鬼束ちひろの『月光』を聴きながら、芥川龍之介の『袈裟と盛遠』を読んでいたりしたら、歌と文章とが、妙に共鳴しているような気がしてきた。ビールのせいかもしれないが。なにしろ、歌詞の内容からでは関連性がよくつかめない『月光』という曲のタイトルも、やがて何も知らずに自分を殺しに来るはずの”いとこ”の盛遠を待ちながら静かに月を見上げている袈裟御前の、その細い肩を思い描いてみれば、これ以外のタイトルは考えられないような気さえしてくるのである。ビールのせいかもしれないが。