電車を乗り継いで昭和記念公園に行く。案内図をみてその広さにおろおろする。水鳥の池、レインボープールを経て、うんどう広場ではパターゴルフコースの前を通り過ぎながら、パターゴルフをやろうと3回ぐらい妻に提案してみたが聞き入れられず。いつか一人で来ようと思いつつ、妻が巡回バスに乗りたいというのを瞬時に却下。こどもの森にはいると、すり鉢状の底に向かって渦を巻いて降りていく散歩道があるのを発見。これは以前に狭山市立博物館で見た共用の井戸と同じ印象。たぶんこの底には枯れた井戸があるはずだ。底の様子はすり鉢の上からもよく見えている。そこには沢山の花が咲いているだけである。ぐるぐる降りて行けば、またぐるぐる登ってこなければならないことも見たとおりである。わかりきっている。もちろん誰も降りない。わざわざ降りてみるなどというのは無益で無駄な行為である。しじみの貝殻を齧ってみて食べられないことを確かめるようなものだ。しかし、オレさまは知っている。みんな降りてみたいのだ。このすり鉢の縁に腰かけて中を眺めている小学生も、中に向かって背伸びをしている大人達も、あのぐるぐる道をぐるぐる歩いてみたいのである。
そういうわけで自分は降りることにする。ここを降りてまた登ってくると世界は違って見えるかも知れないと説得すると、妻も渋々ついてくる。古代の人々が水瓶を携えて降りていった日のことを想いながら、熊が出たときはああしようと計画しながら、大雨のときはこうもあろうと推測しながら、花の咲く渦巻き道を降りていく。ふと花の中に不思議な飛行生物を発見する。なんだこれは。チョウのように舞うのだが羽根の形態はトンボである。かつて昆虫の道を志して約1ヶ月程の厳しい修行の半ばに挫折した経験をもつオレさまである。かつこの大倭豊秋津島に生を享けたオレさまである。たいがいのトンボは目にしてきたが、こんなものは初めてである。慌ててポケットからデジカメを取り出し震える指で電源を入れる。えええレンズが伸び出すのもじれったいわ。逃げてしまうではないか。逃げてしまうではないか。というわけでそのときに撮った貴重な映像。
ちいさなすり鉢なのですぐに終点に到達。すり鉢の中から見わたす風景はまた違う。数本の抜け道が放射状に引かれてもいる。フーコーの監獄ではないが、中央に位置して初めて全貌が見渡せる構造。ただしこちらは丸見えだが。中央の草花の中に立て札が読める。やはり中央の底には水源があったらしい。達成感に満たされて、さて引き返そうと振り返ったら、数組の家族やカップルがぐるぐる降りてくる、ああこれが ”呼び水効果” というやつかと納得したり。
日本庭園で抹茶を頂く。池に松の木や紫陽花が映っている。何があったのかヘリコプターがバリバリ飛んできたのだが、それでも静かな風景。池を廻って歩く。橋を渡る途中で池の中に体長約30cm弱のミドリガメを見つける。オレより年上かも知れない。深々と敬礼。ここでも例の不思議なトンボを目撃。たくさんおるではないか。もちろん、アキアカネシオカラトンボ、優美で貴重なギンヤンマまでいるわけだが、あああそんなスターでさえ、この不思議なトンボにはかなわない。チョウのように舞うのだが羽根の形態はトンボであるおまえたち。もっとこっちに寄って来い。菖蒲が群生しているあたりでついに急接近。頑張って写真を撮らせてもらう。
16時頃になるといよいよ妻が空腹を訴えるので、売店に並んで天麩羅うどんとフライドポテトを買って食べる。帰りの電車のなかで、高校剣道部の男女と思われる一群と相乗りになる。どうやら人気の男子が睡眠中のようで、女子達がときどき立ち上がってうろうろと遠巻きに彼を観察していた。