1300円を握り締めて、後楽園WINSへ。久しぶりの東京ドームは丸かった。中京10Rの発走15分前にWINSに到着。準メインの前だというのに人の数が少ない。さもありなんとは思う。

くつろぎながら馬券を買いたいとか、逆に自宅の研究室で精緻な計算をしつつ投票したいのならばPATを選ぶだろう。実際に馬を見なければ買えないとか、風を感じたい開放感を味わいたいとかいう人は競馬場に行くだろう。そのどちらともが実現不可能である人が渋々足を向けるのがWINSである。競馬場は綺麗になって設備も充実しているし、PAT会員は年々増える一方だし、WINSの利用客は往年に比べれば極めて少なくってきているのも当然のことなのである。

しかし、WINSに集まる人はそうした投票難民だけではない。是非ともモニタに向かって叫びたい人、好んでエスカレータ脇でビニールシートを広げたい人、如何わしいオレンジ色のホットドッグを頬張りたい人、自分はPAT派ほどデジタルでないし競馬場派ほどアナログでないと冷たい炎を燃やしている思想犯、閉所恐怖症のマゾヒスト、副流煙愛好家、教えたがり、淋しがり屋、そうした連中が毎週毎週当たり前のように帰ってきては、口を開けてモニタを見上げながら朝から夕方までそこで過ごすところもまたWINSなのである。WINSは良い。いつきても良い。なんだかこう、PATや携帯からの投票が普及してきたあたりから、ルサンチマンのようなものが漂い始めて、さらに良い雰囲気を醸し出していると思う。

中京10Rのオッズがモニタに映し出されている。7枠7番の牛クン(本名:アトラクティヴ号)は、単勝20倍の5番人気。真直ぐに自動券売機に向かっていって、レースと馬番を間違えないように気をつけながら、牛クンの複勝馬券を購入する。複勝の倍率は2.5〜4.5倍くらいだったが、1番人気の馬にはとても勝てそうな気がしないので複勝までとした。オレさまは本気で牛クンが2着か3着にくると信じている。

単勝オッズは最終的に16倍にまで下がった。聞き覚えのあるファンファーレのあと、牛クンもさっさとゲートインして、そしてスタートダッシュに失敗して、逃げられない。いきなり予定が狂ってしまった。仕方なくても2、3番手から強引にハナを奪いに行くのかと思ったら、逆に他の馬に前を譲りはじめた。おやおや。どんどん席を譲っておる。どんどん席を譲っておる。

まるで行きと帰りの2本の動く歩道が芝生に平行に埋め込まれていて、他馬たちはゴールへ行くほうのベルトの上を走り、牛クンだけがゲートに戻るほうのベルトの上を進行方向に逆らって必死に走っているようだ。脚質云々をいうより、スピードという言葉がこれほど似合わない馬はない。いったい誰が、平坦左回りが得意だとか言い出したのか。

3、4コーナーの中間地点でもうムチが入った。上村騎手のケータイに電話して、無茶はよしたほうがいい、と伝えてやりたい。4コーナーを曲がって直線。モニタに映っているだけでも奇跡としか言いようが無い。前方がきれいに開いているが、それは単に離されただけであって、抜け出すチャンスならここまでに何度もあった。ディープインパクトならこんな感じでもそれが予定通りで、エンジンが温まったところで、いきなりグググイーンと突き抜けてしまうのだが、牛クンにエンジンはない。突き抜けているのは 「午」 という漢字に対して 「牛」 と呼ばれるところの、縦に余分に伸びた直線の部分だけである。

牛クンのオープン挑戦は6着に終わった。