三種の会(正式名称:焼酎が三種類以上あるお店で飲む会)。秋葉原 『(店名失念)』 。O田女史、O西さん、オレさまの3名。こちらの会議が長引いてしまってまたO西さんだけ先に飲んでいてもらうことになったが、7時過ぎには全員着席。O西さんが 「江戸文化検定のテキストを見せたいから」 というので、急きょ集合することになったのだが、当日になってテキストを忘れてきたというのだからあきれる。まあ、飲むための大義名分があればそれで充分なのである。

O西さんが、江戸文化検定に興味津々なのは当然のことで、この人は大の時代劇ファンなのである。とくに 『暴れん坊将軍』 シリーズに造詣が深い。(もしかしたら、時代劇の世界には 『暴れん坊将軍』 系、『鬼平犯科帳』 系、『大岡越前』 系、『水戸黄門』 系のような棲み分けがあるかも知れない。こんど詳しく研究してみたいと思う) 今日も、オレさまが世代の違うO田女史への牽制の意味をこめつつ、最近の時代劇の殺陣はぬるいですよね、とO西さんに同意を求めると、そんなことはない松平健の太刀捌きこそはチャンバラ史上の最高峰である、と厳しく素人の浅薄さを咎められた。オレさまはさっそく、頭のなかの松平健の肩書きを ”ダンサー” から ”免許皆伝” に書き換えねばならなかったが、それにしても、もう少し若い人の名前が出てきて欲しいところであるが、チャンバラ界は深刻な人材不足の悩みを抱えているのである。松平健だけでは、O田女史の興味をチャンバラ界に引き込むことはできない。

そのO田女史は国文系で、主に平安時代後期あたりに関心があるらしい。とくに清少納言が仕えた中宮定子について明るい。しかしながら、鎌倉より前の時代を取り上げたテレビドラマは少ないこともあって、しかも本人はすでにジャパニメーションに本籍を移動してしまっている。時代劇(ていうかチャンバラ)に心躍らせるはずもなく。ああ平安後期といえば…… 『炎立つ』 あたりはだいぶ面白かったよねー、と誰かがお茶を濁したのをきっかけに、会話の行方は徐々に大河ドラマにシフトしていった。

歴代の大河ドラマのなかには、地味だが味わい深い作品もある。『炎立つ』 もその一つだが、例えば、日野富子の 『花の乱』 である。視聴率はだいぶ悪かったらしいが、配役は際立っていたと思う。萬屋錦之介山名宗全(”父はこれより冥土へまいる……”切腹の場面が忘れられない)、野村萬斎細川勝元奥田瑛二一休宗純、そして何よりも富子の兄の日野勝光を演じる草刈正雄の胡散臭さである。ああ、もう一度観たい。無性に観たくなってきました。と涙を袖で拭いながら、飲み干した焼酎(銘柄忘れた)をおかわりする。

演技の話となれば、元演劇部端役部員で犬の役もこなしたことのあるオレさまの場合、いつか人間として歴史人物の配役など得て思う存分に演じてみたいという発生学的願望をその阿頼耶識武家屋敷に抱えこんでいるわけだが、お酒が入って気が大きくなっているときには、さらにそこにファンタジー的要素が混じって、例えばもうただの源義経では満足できない。奥州から北海道、サハリンを経て中国大陸に渡り、ジンギスカンとなって世界帝国を築くまでの源義経の役でなければマネージャーに断らせる。ちなみに、O西さんは演じるならやっぱり暴れん坊将軍として要所要所で小さく鯉口を切ったりしてみたいそうで、O田女史は大奥の女中あたりの役をもらって暇をもてあます正室の耳元でこっそりと言わでものことをご注進してみたりしたいそうである。