そういうわけで朝6時に眼が覚めたので、さささと職場に出社してやり残した作業を済ませる。

O西さんが別件で出社していたりして、「初めてスポーツ新聞の競馬欄を開きましたよ」 などと感慨にふけっていたものだから、如何でしたかと感想をうかがってみると、面白い馬名や小見出しをいろいろ紹介してくれたが、競走戦績や予想のシルシには相変わらず興味がなさそうだった。なかなか。

11時頃に職場を出て、上野の食堂で妻と待ち合わせ。ずっと気になっていた 「プラド美術館展」 をやっと観る。やはり宗教画が多いわけで、画面の中の人物がみな上のほうを見上げているのが、何だか美術館が雨漏りでもしているかのようで可笑しく思えてくる。そうした雨漏りを心配するモチーフ達の中では、やはり駅のポスターで何度も見た、あのムリーリョの描くマリア(『無原罪の御宿り』)がとりわけ可愛らしい。

「あら、雨漏り! ○○工務店さんに電話しなきゃ」

と手を叩いている感じ。洗濯し終わったばかりの青いシーツを干そうとした矢先の出来事である。三日月のおもちゃをうっかり踏んづけたりしてな。ちゃんと片付けなさい、って子供を叱ったばかりの光景。東京都美術館の1Fの、階段手前の 「コ」 の字型スペースには、たいがい展覧会の出展作品のなかでも注目を集めるであろう作品が置かれることが多いようだ。ムリーリョの絵はすべてそこに集められていた。無理もないと思う。

美しい女性の画ばかりが目にとまる。スルバランの、燃える心臓をもって立つ女性(『神の愛の寓意』)も美しい。黒い瞳、黒い髪、しかもどことなく万葉風の装束。まるで平安貴族が立っているかのようである。思わせぶりな表情で、炎を帯びた心臓を持って、”しづこころなく花の散るらむ” と言っている。

何を描くかは画家の問題であって、どう観るかは鑑賞者の問題である……。昨年、国立西洋美術館がそのようなことを宣言していろいろな企画をやっていたのであるが、実を言うとオレさまはそのような考え方に反対である。青い布や百合の花が描かれているからこの女性は聖母マリアなのであり、宗教改革運動に対抗しようとするカトリック教会の宣伝ポスターと思われ、それはだいぶ成功しており、ついでに言えば当時の人々は三日月をこのような形の物体として捉えていた可能性もある、というように、当時の風俗や、歴史的背景、描かれた意図などを、画面から読み取る努力が、観る側にも必要なのだと思う。美しい画面に見惚れる悦びをひたすら享受するだけでも良いだろうが、描かれた当時の背景を想い、当時の人々の感動を現代に生きる自分の胸中に再び甦えらせようとする努力こそが、絵画鑑賞の真髄ではないかと思っている。 art とは 「芸術」 である前に 「遺跡」 なのである。

まあ、いいか。

……で、カトリック系の美術となると、やっぱりオレさまの苦手なルーベンスが出てくる。常日頃から思うのだが、ルーベンスミケランジェロは、もう少し今風の女性の描き方を勉強したほうがいいと思う。今日見せてもらったルーベンスの 『フォルトゥーナ』 も、可愛らしいのだけれど、少女なんだか、老女なんだか、よくわかりません。男性を描かせるとルーベンスミケランジェロも、もの凄く迫力があるのだけれどな。

女性を主題とした絵画も悪くないが、オレさまの嗜好として、画面に沢山の人物が描かれた図があるとつい見入ってしまう癖がある。手塚治虫が好きな理由もそんなところにあったりするわけだが、だからフランドル絵画に多く見られるような田舎の婚礼の図式などはオレさまには格好の暇つぶしになるわけである。ブリューゲルの描いた 『大公夫妻の主催する結婚披露宴』 の大きな木の枝の中に酔っ払いがいるのを見つけたりしてな。楽しいです。婚礼の図ではないが、コリャンテスの 『エゼキエルの幻視』 という作品も臨場感があって、画中に引き込まれそうになりながら、いざ蘇らんとする無数の死者の数をしばらく数えていたりした。

さて、この度の展覧会の広告塔ともいうべき、ティツィアーノの画(『アモールと音楽にくつろぐヴィーナス』)のほうは、いちおう楽しみにはしていたが、ティツィアーノならもっと見たい作品が他にたくさんあるのであまり感動はなく。逆に少し考えてみたいと思ったのが、『盲目の彫刻家』 という画だったのだが、それは美術的な関心ではなくて多分に思想的な関心に属するもので、まだ自分のなかで整理しきれていない状態にある。

ひととおり鑑賞し終わったところで、絵葉書を5枚くらい買って、美術館を出る。上野から池袋にさっさと移動して、夕方まで西武百貨店のLIBROで立ち読みしたり、甘味屋で白玉あんみつを食べたりする。

自宅へ帰る途中、キヨスク東スポを買う。電車の中で開いてみる。平安時代に関心があってたぶん牛車なんか普通に身近な乗り物と感じているであろうO田女史が ”牛” と呼んだ母ルビーバーミリオン (馬名:アトラクティヴ) が、池添騎手を背中に乗せて明日の京都の新馬戦に出走する。1枠1番。△が2つ付く程度の評価。想像していたよりも高めの評価。IK指数は63で、18頭中16位タイ。まあ想像したとおり。しかしながら、データBOXにある 「スピード指数」 ではトップに評価されている。本当か? しかも 「素質」 も3番手評価。本当か? オレさまはついうっかりこの牛クンをMiniPOGで10位で指名してしまっているのだが、少しは期待しても良いということか?