最近は少なくなったかも知れないが、コンピュータ業界で仕事をしていると、必ずどこかで16進数表記に出会う。それは、あるいはMACアドレスだったり、あるいはダンプリストの一部だったりするだろう。「0〜9+A〜Fまで」 の16個の文字で桁繰りをしていく表記方法である。我々の慣れた10進表記では255となる値を、わざわざ ”FF” と書くわけで、昔はファイナルファンタジーのパッケージを見て 「255?」 と小首をかしげたりしたものである(ウソ)。

理屈から言えば、on か off かの2進表記で充分足りるはずのコンピュータに、どうしてそんなもの(16進表現)があるのかというと、つまり 「人間の指が10本だから」 なのである。0〜9までを表現するためには、とりあえず4つの on & off ビットが必要(7までならなら 111 で3ビットあれば足りるが、8や9になると 1000 だの 1001 だのと4ビット必要)で、コンピュータに何かをさせる場合に、まずこの4ビットを1つのセットとして考えてみたくなったのである。そうしてみると、「まだ数えられるじゃないか」 という意見が出てくる。1010 は10なのだし、1011 なら11でしょう、となってきて、1111 まで数えてしまえば良いじゃないか、4ビットを1つの位として15まで数えて、16ではじめてもうひとつ4ビットのセットが必要になって繰り上がる。もう16進数の世界にしてしまおうよ。

そういうことなので、コンピュータを人間の都合にあう10進数の世界に適合させようとしながら、その効率の悪さに気づいて、逆に人間のほうが歩み寄りつつ16進表記の世界を展開させてきたのである。実は我々はかなり無理をしてコンピュータを使っているのだ。もしも人間の手の指が8本しかなかったら、有史以来の量的表現は全世界において8進表記で表現されていたはずで、やがてそこに登場するコンピュータも、庶民の生活と融合しつつもっと自然に、もっとダイナミックに利用されていたに違いないのである。あるいは、現人類においても、もしかしたら陰陽思想を産み出した中国人ならかなり上手に使いこなしていけるのではないかと密かに注目している。

しかし、円周率を無理数だとするのも、要するに 「人間には無理」 なのであって、π(パイ)進数の世界で暮らしている生物 (もしいるとすればだけれども) にとっては自然数なのである。オイラーの定数などは有理数であるか無理数であるかさえもわかっていないそうだから、現人類としは実質的にこの世界を曲解して生きていくしかないわけである。そういうオレさまもよく分かって言っているわけではないけれどな。1年を365日だとか366日だとか言ってみたり、日々の生活を月の満ち欠けに無理やりこじつけてみたり、1日を無理やり24時間に切って、ダースだ、グロスだ、めちゃくちゃである。要するに向いていないのだ。我々霊長目ヒト科の生物にはこの地上の生活はむいていない。どこかにきっと本当に我々が暮らすべき世界があるはずなのだ、きっとどこかにある。それはここではないのだよ!

疲れていたせいか、会議の途中から、後輩のO田女史を相手にどうやらそのようなことをブツブツ言っていたらしい。眼前のホワイトボードに赤いマーカーで描かれた太陰大極図とか三日月とかの絵に気づいてはっとする。これでは、先日ホワイトボードに星のカーヴィの絵を大きく描いたO田女史を叱る資格などないな。

定時後から始めた作業を23時頃に終えて深夜に帰宅。帰宅してから、ついさっき終えたばかりの作業項目に漏れがあったことに気づく。いいや。月曜日に対応すればいいや。食事を摂りながら自分に言い聞かせる。念のため妻にサーバの再起動が必要かどうかを相談してみる。妻には何のことだかわからない。入浴して肩を揉みながら、OK、OK、と100回唱える。運がよければOK。ベッドに横たわりながら、月曜日でいいんだ、と納得する努力を重ねる。しかしながら、夜という時間にはロクなことを考えないもので、風が吹けば桶屋が儲かる式に想像を逞しくしてみると、いずれそれが大きな雪崩れとなって落ちてくる小さな雪玉のように思えてきて、ワールドカップで日本がブラジルとやり合っていたときも暢気に熟睡していたオレさまも、いよいよ寝つきが悪くなってしまった。