Y成君に、ディープインパクト宝塚記念に出走しないことを教えられて愕然とする。職場の予想大会のエントリー者のうち、宝塚記念の勝ち馬としてディープインパクトの名前を挙げたのはオレさま一人だけだったこともあらためて指摘された。ディープインパクトは、すでにこの夏には海外遠征することが決まっているらしい。なんたルチア。

しかしここで狼狽する姿を見せては後々に禍根を残し兼ねないので 「キミのほうこそ何も知らんようだな」 と謎めきつつ含み笑いを返してやった。これで彼もだいぶ混乱するに違いない。

こうなったら、何がなんでもディープインパクトの海外遠征を阻止せねばならぬと決心しつつ、いたたまれない気分だったので、すぐに荷物をまとめてホワイトボードに ”がいせんもん” と書き殴って外出する。

行く宛てもなく日が暮れる頃にしぶしぶ帰社して、ユーザーや仕事仲間相手に山積していたメールを片端から処理し始めたら、あっという間に夜22時を過ぎてしまった。


「僕がこれだけ頑張っているのだから、当然キャプテンベガも頑張らざるを得ないでしょうね」


傍らでEDI用のテストデータの準備をしているY山さんにそう語りかけると、Y山さんは不敵の笑顔に余裕のため息を小匙一杯分だけ添えることで反応してきた。こちらもまた同じような態度で返したりしつつ、30分も互いに苦笑い合戦を続けたのち、「そろそろ帰りませんか」 とオレさまが善意に基づいた画期的な提案をすると、Y山さんはふいに真白なるテキストなど意味もなく開いて 「いやもう少しやっていくよ」 とパソコンの前を離れようとしない。


「あなたが頑張っても、キャプテンベガの脚は止まりませんよ」


言ってやった。
Y山さんは聞こえないフリをしてFTPなどし始めたが、心の中の指先は激しく震えていたのに違いない。