朝から気分転換が必要なほどテンションがあがっていたので、とりあえず冷たい物でも飲んで落ち着こうと思い、自動販売機に適当にコインを投げ入れて、直感にまかせて糖分70%オフの缶コーヒーのランプを押してみたら、明るく元気に釣銭が返ってきて主役の登場を声高らかに宣言した。それから待つこと1秒。百億の昼と千億の夜にも匹敵するような長い長い1秒が過ぎても、どういうわけか一向に、例の主役の缶コーヒーのほうが現れてこない。ほら、どうした、あのコメディアンが階段から転げ落ちてくるような派手な効果音と、さっさと物陰に隠れて死んだふりをするウケ狙いの忍者みたいなリアクションは、ほら、お客様がお待ちかねだ、さあ、出てこいよ……うううーむ。まさかこの自動販売機が、コインで売っていたのは ”ケンカ” であったか。

すでにかなりの高水準で安定していたオレさまのテンションは、ついにここでメータを振り切って計測不能となった。傍らに用意されていた返金カードを抜き出し、そこへ細かい苦情を書き入れ、最後に補給担当者か、さもなくば配送所の係長か、営業所長か、支社長でも会長でも構わぬゆえすぐに挨拶に来いと書き添えて、何本ものセロテープで問題の自販機にしっかりと貼り付けてやった。

それからすぐに、このところ寝不足だったことに気がつき、しかも今日が満月であることにも気づき、昼休みに少し眠ったら、午後から気分がすっきりしてきた。電話の向こうのユーザーと明るく本番スケジュールの延期を相談していたら、受付を通して例の返金カードにお金が添えられて返ってきた。少し多めの金額で ”お釣りは要りません” との伝言つきだった。正しいのは自分であるはずなのに、なぜか自分のほうにこそ問題がありそうな、やりきれない気分になる。

ああ、キャプテンベガ






歎異抄