朝の地下鉄丸の内線で、オレさまのすぐ前に立っていたオジサンは、
隣に立っている背の高い若者の突き出す肘に遠慮しながら、
楽天とTBSが和解しそうだという日本経済新聞の記事を眺めていた。

弾力のある白髪をたくわえた、推定50代前半のその恰幅の良い紳士は、
頭上を威嚇するように周回している若者の肘を上手に避けながら、
日本経済新聞をさっさとたたんで鞄に押し込んだ。そして代わりに、
ちくま学芸文庫と思われる文庫本を無造作に出して熱心に読み始めた。

スーツの仕立ても良いそのオジサンが、いったいどんな本を読んでいるのかと
覗き趣味 (tomfoolだけに) のオレさまは興味津津で背中越しに覗いてみた。
『ブリタニカ推敲』 である。超越論的主観で誤解され易い問題だが間違いない。
うーむ。朝からフッサールか。

1ヶ月前くらいにも電車内で見かけた、モンテーニュおじさんといい、
今朝のフッサールおじさんといい、近頃のおじさんは侮れない。
フットサルなどしている場合ではないな。

いろいろあって残業。帰り道、ふと見上げた夜空の角に、
四肢を張りつめたオリオン座の姿を発見して懐かしさに胸が熱くなる。