また本を買ってしまった。3冊も買ってしまった。
そのくせ買った本は書棚に積んでおいて、いつも手元から離さない本といったら、
アサヒグラフ編の 『わが家の夕めし』 だったりする。

この本は、昭和42年からアサヒグラフ誌上に連載された、有名人の夕食風景の
グラビアを文庫にまとめたものである。

”我が家の夕食” といっても、読む人の献立の参考にはならない。
なにしろ問題の料理というやつが異様に豪華だったり、極端に質素だったりする。
湯川秀樹博士の夕食はお正月みたいだし、中村歌右衛門などはヨークシャテリアに
椅子を与えているし、建築家の丹下健三の食卓には息子の友達のメルダートさんとか
いう外国人までいて卑怯だし、その一方で森敦はカップヌードル遠藤周作夫妻は
イワシ・漬物・梅干、稲垣足穂は夫婦でビール(つまみなし)、あきれるほど
個性的というか、食卓を通して何かを言わんとしているのだとしか思えない。
これはもうある種の思想書なのである。

写っている人々はみな余所行きの格好をしている。家族がいるものは仲良く、
独身者はほどほどに明るく、箸や茶碗やフォークやナイフを手にして、
晩御飯を楽しんでいる。上半身裸の貴乃花は手で春雨を掴んで鍋に放り込もうとして
いるし、ムツゴロウは熊のどんべえと一緒にパンを齧っている。小林亜星はまだ髪が
フサフサしているし、横山隆一はフクちゃんみたいだし、三国連太郎は文学者気取り
でちょっとイヤらしーし、中村紘子は可愛らしい。写真を眺めながらページをめくる
うちに、立ち上がって 「みんなもっと正直になろうぜ」 と叫びたくなってくる。

そうしたなかで、オレさまが最も好きな夕食というのが、
作家・近藤啓太郎の食卓の寿司である。とても庶民的な寿司。いいなあ。
何度みても美味そうだなあ。家族もみんな、リラックスしている感じだしなあ。
生まれる家を間違ったなあ。