通勤の電車の中で 『ローマ人の物語』 をまた読んでいる。
パクスロマーナ編がもうじき読み終わる。

アウグストゥスの深慮遠謀と、それを陰で支えるアグリッパの実務能力と、
この二人の活動は想像した以上にエキサイティングなものだった。
だいぶ以前にカエサルの章まで読み終えて、さてこの先をどうしたものかと足踏み
していたオレさまだが、いざ読み進めてみれば、ポエニ戦役だのガリア戦記だのが
まるで幼児の喧嘩のように思われるくらい、アウグストゥスの人生は疾風怒濤なのだ。

うーむ、アウグストゥス! ことによるとカエサルよりもイイかも知れない。
燃え上がることもなく、消え細ることもなく、ガスコンロの絶え間ない青い炎の情熱で、
ローマ世界を共和制から帝政に、まるでポプラ並木に秋が訪れるように、
静かに塗り変えてしまった。

家に帰ってきてみたら、とうにパートも終わったはずの妻が不在である。
きまり悪そうなサッシに雨戸をかぶせ、暗い部屋の電気をつけて、また消す。
そういえば昨日、葬儀のことで喧嘩したことを思い出した。オレさまが死んだら、
墓など要らぬから、背骨と鎖骨は粉にして海に撒き、骨盤は野良犬の玩具に、
頭蓋骨はサラダボールとして有効利用してくれと頼んだら、本気で言っているのなら
馬鹿馬鹿しいので実家に帰らせてもらうと、ひどく怒っていたような気がする。

行ってしまったのかと思いつつ、空腹を覚えながらガスコンロの上の鍋の蓋を
開けてみたら、冷めたカレーが波波とわだかまっている。いかにも家を出ていった
主婦が最後に残していきそうなシロモノだ。

長丁場になるからなと、とりあえずカレーには手をつけず、台所にあった煎餅をかじり、
あっと驚く。この煎餅は美味しいですね。亀田製菓の豆もち煎餅。かなりgood!

煎餅を見つめながら、この塩味が涙によるものなのか、それとも煎餅の味なのか、
しばらく考えていたら、妻の自転車が持ち主を乗せて帰ってきた。ああ、そういえば、
今日はパートの帰りに現在病気療養中の母の見舞いに寄ると言っていたのだっけ。

カレーと思っていた夕食は、じつはハヤシライスだった。
奇妙だ。世界はかくも微妙に裏切り続ける。