『<人間>を超えて−移動と着地−』(河出文庫)を読み終えた。
上野千鶴子中村雄二郎との、往復書簡形式による対談集である。

だいぶ以前に妻が文庫を買ってそのまま放ってあったのを、ちょっと借りて
読んでみたのだが、この本が意外にツボにはまったことの証しに、
オレさまはこの数日のあいだ、ときどき胸に愛情のような感情が湧いて
くるのを感じた。本を読んでいない時間にもときどきその感情は湧いてきた。
それはまるで大地の息吹とシンクロしているかのような幸福感で、
見知らぬ人の後ろ姿でも、蝉の声でも、台風でも何でも愛せるような気分だ。

この往復書簡のなかで、上野は ”老い” を肯定することに野心的であり、
中村のほうは ”老い” の現実に対して無関心を装おうとしている。
約二十年前に交わされた二人の会話は、ときにすれ違いそうにさえなる
危うさの波の狭間で、互いを手探りで求め合うような切なさを漂わせつつ、
三者であるはずの約二十年後のオレさまの心をも抱きこみ、共生すること
が安らぎであり得ることを教えてくれたようである。

まあ、あれだ。
とりあえず黒木香の名前が出てきたのは懐かしかったな。

ついでにいうと、この往復書簡が連載されている間に、中村雄二郎は一冊
の新書を執筆していて、手紙のなかではそのことにも触れているのだが、
その本は当然のごとく我が家の書棚にもあって、しかも当然のごとく誰も
読んでいなかったりする。積ン読主義者冥利に尽きるというものだ。

そういうわけで、何でも愛せてしまう気分のオレさまは、
いまに来るからと再三ウワサされている台風11号の到着を、ロバート・
プラントにも負けない程の胸いっぱいの愛をもって待ちわびているわけで
あるが、関東直撃は深夜になるとのことで、露払いならぬ先ぶれの雨を傘で
叩き落しながら、今夜も自転車でスポーツクラブに出かけたのである。
さすがに今日は空いていたな。

気がつくと、もう4日も続けてお酒を飲んでいない。