寝坊する。朝から、全身が総毛立つような焦燥感。
空はどんよりと曇っていて、なんだか不穏な気配に落ち着かない。

なんとか出社。
M村君に気分はどうかと聞いてみたら、同じような感じだという。
空間を支配する何かに感応しているのだが、それが何者なのかわからない。

午後から夕方になるにつれて、いよいよ全身が重くなる。
それでも21時近くまで残業。やがて稲光に追い立てられるようにして退社。
帰りの電車でますます調子が悪い。

ようやく地元の駅に帰り着いたところで、ふいに身体が楽になった。
仕事に対するストレスが原因ではない。霧のように小さな雨滴が舞い始めたのだ。
気圧と身体との関係を疑いつつ持っていた傘を開く。

歩いていると、少しずつ、少しずつ、雨脚が強まってきた。
植木の葉音が、マンホールのつぶやきが、少しずつ背後から忍び寄ってくる。

『来た』

と直感して駆け出したら、たちまち大粒の水滴が無数に落ちてきた。
オレさまは、必死で逃げた。