ピンク色のトラを野蛮な田舎町から逃がしてやる夢を見た。
インドのホーリー祭(町中の人が色水や色粉をかけあう祭)で色粉を浴びせ
られたような斑模様だったので、ベンガルトラだったのに違いない。

それにしても、チアズガディスはこれからどうやって生きていくつもりか。
いやいや。もう考えないことにしたはずではなかったか。
指名馬がどうなろうと、条件戦で敗退を繰り返そうが、オープン戦で除外の
憂き目に逢おうが、気が付くとススキ野の辻角で春をひさいでいたりしようが、
いちいち一喜一憂しない。

そもそも11頭が一斉に走れば、どれかが11着にならねばならぬのは当然の
ことである。例えば1024人の人間が集まって、勝ち抜きジャンケンをすれば、
優勝する人は連続で10回も勝ち続けることになるわけだが、それは奇跡でも
何でもなくて、10連勝する人が必ず1人存在するわけである。11頭が走れば、
必ず11着の馬がいる。あたりまえのことだ。もちろん、1頭だけが1着で他の
10頭が同着の2着というケースもあり得るわけだが、なぜそうでなかったかは
POG神に直接聞いてみるしかない。
たぶんオレさまのことが気に入らぬのだと思う。卑怯なやり方だ。

うーむ。

夏休みのつもりで、今日はあらかじめ休暇をとっていた。
ああもしよう、こうもしたい、と考えていたが、とりあえず日記の整理をせねば
と思いつつ、妻が朝日を浴びながらも平気で健やかに眠っている間に寝室を抜け
出し、そーっとパソコンをつけてみたら、10分もしないうちに妻が起き出して
来て 「本日は掃除をします」 と今日の予定を全国ネットで公式発表した。
国民はすべからく賛同せねばならない。

しかもまず布団を干し、洗濯物を干し、湯を沸かし、朝食のためのカップメンの
前で3分間待ち、朝食をすすりながらテレビを見させられ、箸と湯呑を片づけて洗い、
そうした平和的雑事の後に、突然、居間の絨毯を引き剥がす作業を命じられたの
である。高らかに鳴り響く突撃ラッパ。国民はすべからく戦慄する。

テレビを移動し、さらにテレビ台を移動したら誤ってテレビ台が壊れてしまい、
どちらのせいで壊れたかで暫らく揉め、そのまま口論しながら絨毯を引き剥がし、
剥がしてみれば汚れが酷い絨毯を捨てるか洗うかで揉め、丸めるか切り裂くかで
また揉める。全貌を顕にしたフローリングにワックスをかけるため、濡れタオル
を用いようとする妻を厳重注意し、フランス革命が勃発し、乾いたタオルを持っ
て来いと命じたら、妻は 「パンがなければケーキをお食べなさい」 と激昂しな
がら現場を去り、するとにわかに窓外の雲行きまでが怪しくなり、単独バルコニー
に踊り出て干してあった布団を取り込み、洗濯物については睨みつけるだけとし、
居間に戻ってきたら突然の雷雨。

妻のバルコニーへ走る足音を聞きながら、洗濯物の無事を確信したところで、
冷静にテレビなどつけてみると、いままさに参議院本会議で郵政民営化法案が採決
されなんとするNHKによるライブ中継の真っ最中。居間に戻ってきた妻と一緒に、
白い札と青い札の数を数える。そのうちに妻はすやすやと眠ってしまった。
未熟者め。

郵政民営化法案が参議院で否決されたのとほぼ同時に、雷雨はおさまって、外には
また暖かい太陽の日差しが戻ってきた。この水滴に包まれた世界のきらきらと輝く
瞬間が、何にも増して美しい。妻を叩き起こし、再び大掃除の続きをやろうと提案
するが、妻はそのまま寝室へ引きこもって、完全昼寝モードに突入してしまった。
結局、国家のために働くのは国民ばかりである。

いつものことだが、両手に雑巾をもって、床板を磨いていると、
『ベストキッド』 のダニエルさんを意識してしまう。

勢いにまかせて網戸の滑車も修理し、傷みの目立つ家具にはニスを塗ったりする。
ひととおり掃除が終わった頃に妻は起き出してきた。掃除のことなどすっかり
忘れて、スポーツクラブに出かける準備などしている。夕食はどうするのか、
夕食はカレーが良いのではないか、夕食を食べてからスポーツクラブに行くのか、
食べる前にスポーツクラブへ行ってしまうのか、Yシャツにアイロンをかけるの
は誰か、などといった諸問題で口論になる。野党の言うとおり、この日本には
郵政民営化よりも重要な問題が山積しているのである。