予定通りに休暇をとった。

それでも念のため、9時過ぎに職場に電話をして
「予定どおりに休みますから」
と伝えてみる。うん、うん、わかったから、とそっけない返事。

しばらくしたらリフォーム屋が営業にきた。口をあけて、熱心に話を聞いていたら、
やがてあきれた様子でため息をついて帰っていった。

その次には、ガス屋がきた。妻が応対している間に、庭を箒で掃いたりする。
台風様がいらっしゃるというものだから、今のうちにお迎えする準備をせねばならぬ。

それにしても良い天気である。ガス屋との雑談が済んだら、妻も洗濯など始めている。
本当に台風様はいらっしゃるのだろうか。

窓を開けて空を眺めたり、朝刊を開いて天気図を深読みしたりしていると、
掃除の邪魔だからどこかへ行け、と妻が短気を起こし始めたので、慌てて着替えて
ジョギングにでかける。風邪気味だが、身体は元気で、足取りも軽い。

いつもよりピッチを上げて走る。天気は良いが、雲は発達していて、降るときは降るぜ、
という圧力をかけている。そういう気圧配置なのである。予定していたコースの3分の2
ほどを消化したところで、ポツリ、ポツリ…パラ、パラ、パラ、と雨が落ちはじめた。

「すわ洗濯物が」

一刻も早く妻に知らせねばという、一兵卒の上官に対する忠義から逸る心とは裏腹に、
足が疲れてもう走るのをやめて歩きたいという、もう一人の脆弱な自分が文字通り足を
引っ張ろうとしている。”メロスは激怒した……”、などという太宰治の書き出しの部分
を思い出しながら、劇的なゴールを目指して、もつれる足を必死で空回りさせる。

大急ぎで帰ってきてみれば、いつしか雨は止んでしまっていた。ふざけやがって。
こちらはもう膝ガクガクの汗だくである。心も額も大雨である。馬鹿にしやがって。
ストレッチをして、シャワーを浴びて、アイスコーヒーなどちょっと飲みながら、
ほっと一息ついていたら、いきなりザーッと降り始めた。
妻と二人で、大慌てでバルコニーへ走り、バケツリレー方式で洗濯物をとりこむ。
ふざけやがって。

正午を過ぎて空腹になったので、ザーザー降りの中、傘をさして外出する。
すると100mも歩いたところで雨がピタリと止んでしまった。馬鹿にしやがって。
濡れたアスファルトが、強い陽差しを照り返しはじめる。ふざけやがって。
凄まじい熱気に耐えられず、日陰を求めてそのまま傘を差したまま歩く。

昼食は、ステーキ丼を食べた。妻はハンバーグ。二人ともビールも飲んだ。
食後には少しだけ本屋に寄ったが、何も買わず、ろくに立ち読みもせずに帰ってきた。
途中の八百屋でスイカを買い、花屋でトルコキキョウを買った。

帰ってきて2時間ほど昼寝をする。雨は降ったり止んだりを繰り返していた。
はじめは畳でゴロゴロしていたのだが、そのうちに本格的にベッドに入って眠る。
目が覚めたのはちょうど午後6時だった。雨は止んで、向かいの家の瓦屋根が
きらきらと夕陽に光っていた。

ふたたび着替えて出かける。夕食もファミリーレストランで外食。
まずビールを飲んで、うな丼とざるソバのセットを注文する。妻はネギトロ巻。
食事が済んでさて帰らむとしたら、また雨。雨降りごときでもじもじしておれぬ。
「濡れて帰るぞ」 と妻の手を強引に引いて雨の中を堂々と歩きだす。
するとまた100mも歩いたところで雨がピタリと止んでしまった。
濡れ損である。

夜道を夫婦喧嘩をしながら歩いて帰ってくる。
風呂に入ってさっさと寝る。