NHK馬居る

朝8時半起床。いよいよ今日が連休の最終日。
オレさまの心と同様に空は再び薄曇である。どういうわけか喉が痛い。
昨日は競馬でも声をあげる様な機会はなかったし、どうやら風邪をひいたものと思われる。

朝食を摂りながら、NHK 『日曜討論』 など観る。
尼崎の列車脱線事故JR西日本の経営体質をテーマにした討論だった。
安全性に関する品質管理はIT業界においても最重要課題である。他人事ではない。

予定していたとおり、昼過ぎに母が来る。寿司をとって、妻と母と三人で母の日を祝う。
食後にカステラを食べ、母と妻がお茶を飲みながら世間話などをしている間、
オレさまは庭に出て草むしりをした。

午後3時半を過ぎた頃、テレビをつけて 『スーパー競馬』 を観る。
NHKマイルCの1番人気は武(ぬけぬけと)豊騎乗の結局ペールギュントだった。

今日ほどエイシンヴァイデンを愛おしいと思ったことはない。
どんな考えがあってのことか、意外にもスタートから果敢に先頭に立って逃げたのである。

後続に2馬身ほど離して、マイペースというよりも脱力のスローペース。
それでもエイシンヴァイデン君は、どの馬よりも一生懸命に、厳しい、芝コースとは名ばかりの、
茨の道を必死で駆けていたのに違いない。かつてはペールギュントが勝ったデイリー杯で、
1番人気に推されたこともあったが、そうしたプライドをも捨て去っての逃亡劇。
いかに先行有利な馬場とはいえ、府中のマイル戦で逃げ切れるわけなどない。
その悲壮な後ろ姿に、オレさまは胸が熱くなる想いがした。

レースは坦々と流れて、じきに大ケヤキを過ぎる。逃げるエイシンヴァイデンは、一瞬、
木の影に隠されて姿が見えなくなり、また再び画面上に現れて無事に先頭を走っている姿を
確認したときにはなぜかほっとした。サイレンススズカに運命を重ねてみるほどのPOバカぶりである。
いよいよ直線に入っては、早めに内をあけて同厩のラインクラフトにグリーンベルトを譲り、
さらに枝打ちの役目まで買ってでて、ディープサマーあたりの前を巧妙にふさぎつつ、
なおかつ自らも最後まで投げ出さずに粘って粘って粘って6着。

その遥か前方でラインクラフトと福永騎手が、十万余の競馬ファンからの喝采を浴びているところへ、
ようよう追いついて行って僚馬に祝福の言葉をかけるその姿は、まるで牛若丸を慕う弁慶のようだった。
偉かったぞエイシンヴァイデン。いままでで最高のレース内容だった。

涙を袖でぬぐいつつ、外が肌寒くなってきた頃とみて、
母に声をかけて実家まで送る。

母を送った帰りに、文具店でアロンアルファとスコッチテープを買う。
例の洗い物をしていて割ってしまった、もらい物のチャイナを修復するためである。

後片付けを済ませて、暢気に 『レインマン』 のビデオなど観ている妻の横で、
黙々と細かい破片の接合作業を行う。レイモンドの真似をして、んー、んー、と相槌を
打ちながらボンドのついた小さな破片をいじりまわしているうちに、
ふいに左手の親指と人差し指がくっついてしまった。背中に水がざーっと流れる。
指がくっついた! と、立ち上がって大騒ぎをしながら、部屋の中を駆け回る。
慎重に引き剥がそうと試みるが、見事に貼り付いて剥がれない。
ああこれから一生、説教をするお釈迦様のように指で輪を作ったまま、
永久に 「OK牧場」 とかいって暮らさねばならなくなってしまうのか。
それだけはイヤだと覚悟を決め、右手の協力を得て全力で事にあたった結果、
なんとか指の分離に成功する。ほんとうに恐ろしい出来事だった。
妻は映画に感動して涙を流していた。