午前中は、モッコウバラの手入れと庭の草むしりをやる。
出かけよう、出かけようと思いながら、つい庭先でぼーっとしてしまった。
モッコウバラの無数の蕾を眺めつつ、アイスクリームなど舐めながら、ミカラ・ペトリのCDを聞く。
ジムノペディ第1番』 は、こんな陽気にぴったりだ。
妻も陽を浴びながらゴロゴロしている。退屈というよりも贅沢な午後になってしまった。

ふと朝刊を引っ張り出してみると、
ウィルスバスターに不具合があってパタンファイルを受け取った多数のPCに障害が起きたとか、
そんなことが書かれた記事を1面に見つけて唖然とする。ミイラ取りがミイラになるという言葉は
こういうときに使う言葉では断じてないが、最も疑ってはならなヤツが犯人だったというオチ。
考えられるトラブルのなかでも最悪の例である。自分も気をつけよう。

隣に座っている妻が、新聞記事ではなくオレさまの顔色を真剣に読んでいる。
まあ、いいか。たまには難しい顔も見せておかないとな。

15時になる少し前に、はっと気づいてビデオの録画予約する。
それから身支度をして、片端から戸締りをして、出かけるぞと声をかけようとしたら、
妻はすっかり寝入っているので、観念して 『スーパー競馬』 をリアルタイムで観ることにする。
逃げてばかりじゃだめだからな。

広い東京の芝コースで行われるオークスTRのフローラS(G2)であるが、
意外にも荒れることで有名なレースだということである。
ならば、断然1番人気のレースパイロット(Y山さんがCOTで、Y成君がminiPOGで指名)は、
負けちゃうかも知れないなあと、正直なところ少しは希望を捨てずにいたことを否定はしない。
しかも、今日の府中は先行馬に有利な傾向にあるとかで、出遅れ&追い込み専門のレースパイロット
にとっては、やはり不利な材料であることに、微かな光明を見出そうとしていたことも否定しない。
そのうえ井崎脩五郎の本命がレースパイロットだったから、これはもう、あれだったのである。
だから、多少の緊張はしながらも、心は広い海原を渡る船の上でゆったり水平線を眺めている
くらいの気分で、オレさまはスタートを待っていた。

ところが、スタート直前の最終オッズではその1番人気がディアデラノビアに替わってしまった。
武(まったくおまえは)豊のせいである。またしてもやられたかと、眉根をひそめてみる。
いずれにしてもディアデラノビアレースパイロットも追い込み型脚質なので、
双方とも不発のまま沈んでしまうに違いないのである。国民は人気総崩れの大波乱を渇望している。

ところが、スタートしてみたら、レースパイロットは蛯名騎手にもかかわらず出遅れなかった。
ふざけるなっ、とテレビの前で立ち上がってコタツの足を蹴り上げ、あまりの痛さにあふれる涙を
ぐっと堪えながら滲む画面を凝視すると、あろうことか、レースパイロットは何食わぬ顔で
4〜5番手の好位におさまってやがる。うぬぬぬ。話が違うではないか!
画面の中の蛯名騎手を叱責してみるが、このペテン師は聞こえないフリなどしてやがる。
まんまとしてやられた。 追い込み馬だとばかり思っていたのにすっかり騙された。

一方のディアデラノビアのほうは思ったとおり最後方でイジケている。
どう考えても、レースパイロットが有利。まんまとしてやられた、まんまとしてやられたと、
自らの腿を握り拳で何度も叩きつつ目を閉じ天を仰いで嘆く。
坦々としたペースで大ケヤキを通過。レースパイロットは加速も減速もしない。

やがて馬群が直線コースに入ったところで、レースパイロットがプイと先頭に立つと、
もはや完勝パタンにはまっていくのが一目瞭然。テレビ画面の左縁にはディアデラノビア
見え隠れしているのだが遅々とした伸び脚が絶望的にもどかしい。

こうなれば、せめてパーフェクトマッチ(POCでオケラオーが指名)のほうを、我が神通力で
押さえ込むしかないと、その姿を探そうとしたところで、ようよう外のディアデラノビア
エンジンがかかってディアデラ伸びてきた。もう一度祈りを込めて声援を送る。
差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ差せ……

届かなかった……、とため息をつくオレさまの耳に、アナウンサーの叫び声が聞こえてくる。

 「ディアデラノビアが鮮やかに差し切りました!」

え? なんで? そんなこと言い切ってしまって良いの? という感じ。
とにかく、レースパイロットはクビ差でディアデラノビアに差されていたらしい。
ほっとする。
ありがとう武(まだ許したわけじゃないぜ)豊!

スーパー競馬』 が終わって、テレビを消すと、ちょうど妻が眼を覚ました。
沈みゆく太陽を追いかけるようにして、慌てて二人で外出する。
体調が良くないと思ったら食事をしていなかったので、マクドナルドでハンバーガーを食べる。
100円のコーヒーをすすりながら、窓外に暮れなずむ街並みを眺める。
オレさまは世界を変えたいのだ。