いつもより1時間早く出社するため、朝5時に起床。早起きの加減がわからない。なんだかモタモタしているうちに遅れそうな気がしてきたので、慌てて自転車にまたがって駅まで走る。明け方の西の空には大きな明るい満月が輝いている。アラビアンナイトの無限の入れ子の世界に引きずり込まれてしまいそうな気配である。月に向かってペダルを漕いでも漕いでも漕いでも月は動かない。月は動かないけれども、ペダルに合わせて何か別の仕組みが作動しているのではないか。そのうちに周りの世界は一変し、自分を知る人は誰もいなくなってしまうのではないか。寝不足気味の頭で考えつづけるには限界があるようで、そうした妄想も列車のドアの向こう側に置き忘れてしまうと、やがて辺りは暗くなり電灯のモーターを回す音をしみじみ聞きながら自転車を漕いで帰ってきていたりする。