朝は普通に出社して、午後から早退。途中、池袋の書店に寄って文庫を3冊購入。『悪の華』『メノン』それに『骨飢身峠死人葛』。bibliomaniaが発症したものでいつ読むのかは本人にも分からない。帰宅後すぐに自転車を飛ばして役所でゴミ用のネットをもらいうける。ただし、アルミ缶用のネットは無いということで難しく頷きながら反転帰宅。妻に状況報告後、今度はスーパーマーケットに移動して夕飯の買い物をしていたら、よう、と声をかけられた。隣に住む老紳士である。

この人はもう七十を超えているはずだが、いつどこで会っても身なりの整った人で、いまも買い物カゴを乗せた台車を押したりしながらハンチングをかぶっていたりする。若い頃は銀座でよく遊んだそうで、お世辞も交えて言えば、どこか小林秀雄のようなイメージがある。

「奥さん、調子悪いの?」
「ええ、どうやら、腰を痛めてしまいまして……」
「やっぱりな。今朝、窓の外を大儀そうに歩いていくのを見たよ」

カレーの調理に適しているのはメイクイーンである。それからセロリと野菜ジュースも入れると良いらしい。四つ足は避けたいという妻の我儘もきいてお肉は鶏モモを採用。そうした品物についてそそくさとレジで会計を済ませてスーパーを出て、うっかり買い忘れたヨーグルトをまた店に舞い戻って買い足していから帰宅。

絶対安静のはずだったが一体どういう了見かと、今も辛そうに横臥している妻を詰問したら、知ってのとおり月曜日は生ゴミの日、ここぞとばかりに汚れ散らかす心亡き輩の心亡く振舞う様を黙って眺めているようではゴミ当番の名折れ、ゴミのこととはいえこればかりは捨て置けぬと何やら意地を張っている。”厳重注意”を言い渡して夕飯の仕度にかかる。

なにしろまともに料理をするのは昨日あたりから初めてのことで万事につけて自信が持てない。夕方5時から玉葱を刻み始めて、やれやれ下ごしらえが終わったかと思えば、時計はもう7時半を回っていた。もはや代替案など有り得ない。失敗は許されないのだと思うと、コンロに点火するのが怖くなった。プロゴルファーは、アプローチの時間がとても短いそうだが、たぶん料理においてもアプローチの時間は短いほうが男らしいのに違いない。躊躇ったのは数ナノ秒で、なるべくあっさりと火をつけて調理にかかった。

結局、カレーライスを口にできたのは夜9時だった。乙カレー。今回もまた、あまり思うように出来なかったような気がしてならない。玉葱の量が多すぎたのに違いないとか、食べながらいつまでもくよくよしているのを、妻がその都度、銀のスプーンで掬ってくれた。もう少し自信をもって行動しないとな。