ふと思い出して、先日銀行で換金してもらった小銭が幾らになったのか妻に訊ねてみたら、1,902円だったという。「せんきゅうひゃくにえん」と「せんきゅうひゃくにねん」とは、音に聞くと響きがよく似ているわけで、こういうときに、駄洒落とオヤジギャグの世界に身をおく者として、まずしておくべきことは”年表を見ておく”ことだったりする。サトウハチローの『長嶋茂雄選手を讃える詩』など暗誦しながら、手元の吉川弘文館の『標準世界史年表』を静かに開いてみると、1902年には、エミール=ゾラが亡くなったり、正岡子規が亡くなったりしているようだ。いずれも1,902円的な解釈が難しいので、さらにインターネットでWikipediaにもアクセスしてみる。八甲田山雪中行軍遭難事件、初の映画館がロサンゼルスで開業、キューバアメリカ合衆国から独立、うーむ。いろいろあったようだが、強いて言えば、清国で纏足禁止令公布された事がちょっと気になるくらいか。

ところで、お金は「1,902円」とは表記しても、年代の場合は「1902年」であって「1,902年」のようにカンマ編集されているものを見かけたことがない。もしかしたら、個々に独立した数字だからだとか、特殊な用法があるのだとか、何かそれらしい理由がつくのかも知れないが、何よりもやはりカンマ編集する必要がないからではないかと思う。西暦年はもうかれこれ1,000年間以上もの間ずっと”4桁”と相場が定まっていたし、さらにこの先2年間は4桁のままだろう。また仮に2012年以降もカレンダーが必要となった場合でも、そこから向こう8,000年くらいの間は5桁に増えることはまずないはずである。カレンダーの年表記に限ってはカンマ編集などしなくとも位取りを間違える心配など皆無なのだ。

そうして、あらためて身の周りの数字を眺めてみると、1年365日、1日24時間、1時間は60分、1分は60秒、カンマの出る余地がない。義務教育12年、1都1道2府43県、テレビ東京12チャンネル、東京タワー333m、憲法17条、コント55号、コンバトラーVの身長57m、カップラーメンとウルトラマン3分間、相撲の決まり手48手、スクワット100回、近所のお婆さん推定150歳、怪人ニ十面相、東山三十六峰草木モ眠ル丑三ツ時、二八蕎麦、九十九里浜、ハリケーン「カトリーヌ」の中心気圧最大904hpa、除夜の鐘108回、生ビール飲み過ぎても5〜6杯、せいぜい二日酔、101匹わんちゃん大冒険、カンマ編集が必要な数字など意外に少ないのではないかと思う。

カンマで桁を区切る必要が生じるのは、非常に大きくてかつ精緻さを求められる数字の場合、人の集団を数えるときと、お金を数えるときくらいではないだろうか。そしてカンマが必要な数が表すものは、天文学がそうであるように、たぶん本質的には人間の手に負えないものに違いない。天はときにいともあっさりと我々を見はなすものである。

1,902円は妻にやったものだから、何に使ったのかは分からない。