自転車を漕いで病院に行く途中、老人ホームを囲む生垣の一角に、五間ばかりにわたって紫陽花が咲いているのを発見した。赤むらさき色と青むらさき色が左右に均等に広がって、一双の屏風のように華を競っている。自転車を止めてしばし見惚れてみる。雨の国の王様というのも悪くないかも知れない。そういえば竹宮恵子の 『イズァローン伝説』 にも雨の国が出てくるが、その場面ばかりとても強く印象に残っているのはどうしてか。ついでに言うと、この雨の国のイメージは、井上直久イバラードにも重なるような気がする。静かである。

王様といえば、メイド喫茶というものがあるように、”王様喫茶” があっても面白いかも知れない。
「うむ。苦しゅうない。どこにでも座れ。そちだけは特別に許そう!」 とか、
「なんと! コーヒーだけで良いと申すか。王の寵愛を享けながら、つくづく欲のない男よ!」 とか、
王様から特別扱いされる気分も楽しいかと。まあ、いいか。

病院は珍しく待たされずに診察を終える。血を抜かれた。スーパーマーケットに寄ってみると、父の日にあたって子供達が描いた父親の似顔絵とメッセージが貼りだされている。バナナと牛乳をレジ袋に突っ込みながら読んでみる。「お父さん、遊んでくれてありがとう」 「いつも僕のために働いてくれてありがとう」 うーむ。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや……のようなものか。

書店で少し立ち読み。亀和田武の著書を1冊購入。斉藤由香さんとの会話の件が決め手になった。この人がいうように、北杜夫を青春の恥部と思って胸に秘している人はたくさんいるのに違いない。そして相手が北杜夫ファンだと知ればもう全面的に信頼したくなってしまうのである。

夜。夕食に天ぷらソバをすすりながら 『オーラの泉』 を見せられる。この時間に夕食となってしまったのだから仕方が無いが、妻は念力でチャンネルを固定しながら、放送内容に関しては一切コメントをせぬようにと亭主に釘をさしてくる。了解。何も見ない。何も聞かない。妻の前世がたぶん 「子供」 なのだとわかってもあえて何も言わない。
静かに食事を終えた後は、テレビ付近から離脱して読書。美輪明宏がブラウン管から立ち退いた後には、長引いているバレーボール中継を漫然と画面に映しながら読書。それからようやく 『有頂天ホテル』 がはじまったので観る。うーむ。三谷幸喜は楽しそうだな。