やや遅めに退社して、書店の歴史書棚周辺を空しくうろついてから帰宅してみると、もう居間の時計は22時である。夜食を啄ばみながらNHKで人形浄瑠璃を見る。いつだったか、休日に公園を散歩したときに、妻が人工池の底を覗き込みながら、「こうして小魚を眺めているときは、水面に映っているはずの自分の姿が目に入らないから不思議ね」 と言っていたのを思い出す。確かに人形芝居に見入っていると、人形の後ろからついてまわる人形遣いの姿がいつしか気にならなくなってしまう。だから携帯電話で話しながら運転するのは非常に危険なのだ、とかぶつぶつ言いながらドナルド・キーンなど拾い読みしているうちに眠ってしまった。