また怖い夢をみた。買い物をしようと家を出たところで、不思議に暗い南の空の彼方に雷のごとくミサイルが落ちて爆発した。「ああ、とうとうか」 と自分はすぐに全てを理解し、南方に生まれたばかりの青白い夕焼けを、すでに承認済みの諦観とともに眺めた。さらに間もなく、第二撃目のミサイルが同じように暗黒の南の空を激しく縦に割って落ちた。自分たちは本気なのだという敵方の強い意志が伝わってくる。買い物に行くのは諦めて室内に戻ると、外から拡声器を通したアナウンスが聞こえてきて、町内の人々は残らず学校や集会所に集合させられた。自分も呼びかけられるままに、老いた母の手を引いて渋々ながら近くの図書館へ向かった。道幅いっぱいに、気難しげな戦車や兵隊が回転寿司のようにどこからともなく整然と湧いてきては、また何処かに消えて行くのだった。その流れに逆らって沢山の市民がまたどこかへ向かっていた。人々の渦に巻き込まれながら、自分は一番上等の運動靴を履いてくるべきだったと後悔していた。これから、長時間にわたって立たされたり、遠くまで歩かされたりするに決まっているからである。図書館に辿りついてみれば、すでに沢山の老若男女が、立ち並ぶ書架の合い間に直立不動の姿勢を強いられていた。それらを見わたせるであろう貸し出しカウンタ内の椅子のひとつに、黒い眼帯をした将軍が 「ヤ」 の字に足を組んで座っていた。母はもう体調を崩していた。将軍は椅子にふんぞりかえったまま、窓の外の景色を煩わしそうに眺めながら、「諸君のなかで日本語のわかるものはいるか」 と艶のある明瞭な声で我々に問いかけた。あらためてそういわれると誰も返事ができなかった。
貸本屋で 『鋼の錬金術師』『結界師』 を数冊ずつ借りる。電脳コイル第3話〜第7話まで観る。それから寝る前に 『マクベス』 を少し読む。これまでは岩波文庫木下順二訳ばかりで読んでいたが、あらためて新潮文庫福田恆存訳で読んでみることにした。それにしてもマクベス夫人である。「魚は食いたい、脚は濡らしたくないの猫そっくり」 と猛将マクベスを嘲笑う場面など感服してしまう。ついでに、リア王の長女ゴネリルは、亭主(アルバニー公)に向かって 「あなたのなさり方はいつもどこかに乳の香が残っていて」 と押さえ込んだりするのだが、この二人の女性を地獄の門の左右に立たせてみてはどうかと魔王に進言しようと思う。