通りがかった駐車場の隅で、蝉と雀が格闘していた。もはや夏の季節が終わり、死期を悟ってアスファルトに横たえている蝉の腹を、小さな雀が嘴の先で時々啄ばむ。死にたくないのか、痛いのか、くすぐったいのか、蝉は突かれる度に大騒ぎをするので、雀は啄ばむ度に蝉から大きく離れ、また蝉が静かになると、小さな頭を忙しく傾げながら確かめるように抜き足で忍び寄り、死線を彷徨う蝉の腹にまた一撃を食らわすのである。蝉はまたぎゃぎゃぎゃと叫びながら羽根をバタつかせる。雀はまた驚いて逃げる。この光景はいつか見たことがある。モハメド・アリアントニオ猪木異種格闘技世界決戦だ。分かっている。蝉はすでに滅ぼされつつある。だがそれは現せ身での些事に過ぎない。いまこの瞬間に彼が試されているのはもっと違うことなのだ。