連日の猛暑。朝から元気に靴など履いて出てみれば、玄関先に蝉が仰向けに死んでいるのを見つけて念仏など唱えつつ、”セミ・ファイナル” などという言葉が頭に思い浮かんでしまうのも、強ち暑さのせいでないとは言い切れないわけである。訪問先でも、いや暑いですね、とさえ連呼しておけば例え初対面の相手でも挨拶が済んでしまう時節、初めまして私こういうものです、と名刺代わりに団扇を差し出せば、それで万事がOK。アイスクリームのフタなら、なおOK。
このところ頻繁に、クーラーを点けるべきか、点けないべきかで夫婦喧嘩になる。しかも何故かその都度、互いの主張が入れ替わる。地球温暖化を気にしつつ、暑さに倒れていく人々の無念を想いつつ、でもやはり暑くて夜が眠れないようでは翌日の活動に支障を来すのでクーラーを点けて眠りたいのだが、睡眠中にクーラーの冷気に曝されて喉を痛めてしまってもやはり翌日の活動に支障を来すこと必定なわけで、基本的にクーラーは長時間点けておかないように気を使っているのだが、かといって眠っているうちは機械が何をしでかすか分からないから、二人ともタイマー機能を利用しようとは一寸たりとも思わない。クーラーは人間が目覚めているときにしか使わないことに決めている。目覚めているといっても仏陀のように目覚めているのではなくて、眠っていない状態のことを言っているわけだが、暑さのせいで夜中に目が覚めることしばしばなので、先に目が覚めたほうが 「配給です」 と囁きながらクーラーのスイッチを入れ、室内が涼しくなったことを確かめてからクーラーを切ってまた寝ることになっている。ときどき室内が冷却されるのを待つあいだに台所へ行って水など飲んだりもするのだが、そこで冷蔵庫の中がめくるめく楽園であることを発見するのである。そしてはっと事態の危険性に気づいては、すっかり目が覚めてしまったりするのだ。シャーリプトラよ。