寝苦しかった。深夜3時頃まで、暗闇のなかで睡魔を喚び降ろす儀式をあれこれ試していたが、とうとう耐え切れずに起き出して、大声で助けを呼ぼうと窓を開けてみたところ、満月の光がアスファルトの上に青い陽だまりをつくっている。しばらくその光景に見惚れていたら、急に風が冷たく感じられたので、押入れから毛布を出して身体に巻いて寝る。8月に毛布。問題なし。それから数時間後、いつもの時刻に目が覚めて身支度をしていたら、妻の実家から電話がかかってきた。義母の親しい友人が亡くなったらしい。自分もよく知っている女性で、つい数日前にも元気に道端で挨拶を交わしたばかりであった。亡くなったのは、丁度、夜中の3時頃だったそうだ。突然のことに夫婦ともども狼狽する。
近頃の小説は説明が多くて困る、とO西さんが嘆くので、説明の多い歌謡曲も増えていますね、と応える。説明の多いメニューや、説明の多い処方箋や、説明の多いバラエティー番組、説明の多い国会中継、なんでも説明責任を免れない時代なのである。従って私が何故いま、ほか弁でのり弁を購入したかについて、その理由を是非ご説明させていただきたい。いえ大丈夫、30分もあれば済みますから。
夜は職場の壮行会だった。どなたの壮行会だったのか、また会場はなぜ 『日本橋亭』 に決めたのか、何人くらいが集まって、会費はいくらでいつどの様な形で徴収したのか、こうした事柄についても是非、別途に機会を設けて詳細にご説明させていただきたいと考えている。また塞ぎかけたピアス穴のせいで同性愛者だと思われることがときどきあって、そういうときは説明が長くなるので無理に否定しないで済ませるようにしているわけだが、あえて少しだけ説明を加えておくと、私の妻は男性ではないし、もちろん女性の妻を持つからといって私まで女性だということにはならない。