喉がこむら返りを起こしたように痛い。昨夜は喉の痛みで何度も目が覚めては、気合で睡眠時間を延長したのだが、今朝になっても何も改善されていない。自問自答してみても、実際に体温を計ってみても、熱があることは明らかで、食欲も無ければ、体を動かす気力さえない。休日にはあれもしようこれもしよう世界制服もしたいし映画撮影もしたいしアフリカ探検もしたいし床屋もいきたいと思っていたのにすべてキャンセルである。じっと鉄アレイのように床板に横たわっていることにする。抵抗もせず、怯えもせず、床に臥してただ待つ。台風が過ぎるのを、砂嵐が止むのを、夜が明けるのを待つ。待つことが出来るのが大人の強さなのだ。そう自分に言い聞かせながら、5分も過ぎると退屈になってきたので、書棚から 『古事記』 を取り出してきて、少し読んではまた少し眠ることをしばらく繰り返す。沼河比売の甘い歌声、下照比売との安らかな日々、豊玉毘売との辛い別れ、ときどき眠ってはまた目が覚めて、ああこの胸の苦しみは本当は風邪のせいなのだったと、思い出してはまた 『古事記』 を少し読んでまた少し眠るということを、夜中まで続けていた。