快晴。午前中は会社を休んで、飛行機に乗るという母を羽田まで見送る。空港快速のモノレールなかなか速い。終点で降りる。母は、あんたが来てくれなかったら第1ターミナルと第2ターミナルとどちらで降りたら良いか迷ったに違いないと言った。その手にのるか。チェックインをしながら、この人はちゃんと飛行機に乗れるでしょうかと窓口の女性に相談してみたら、保安検査場通過証というものをオレさま用に発行してくれた。搭乗口までの同行を許すというわけである。ANAはそれなりにやさしい。手荷物検査 (これがつまり保安検査場のことか) で母と一緒にチェックを受けたのち、搭乗口まで歩くわずかな間にも、ANA職員と思われる人が杖を振り回す母に近寄って手を貸そうかと声をかけてくる。増長しやすい母は丁重に断りつつも上機嫌である。搭乗口では飛行機までの移動バスに乗るのにも優先的に案内しようとしてくれる。行く先の空港でも座席から到着ロビーまで誰かが付き添うように手配してくれたらしい。早割りサービスで買った航空券なのでかえって恐縮してしまうのだが、送り出す家族としてはとても安心である。ANAはやさしい。搭乗バスに嬉々として乗り込む母を見送ったのち、ふとどこから出れば良いのか分からず案内所に訊ねてみたところ、到着ロビーから出れば良いのだと教えてくれた。誰もいない到着用の通路をひとり優雅に抜け出ると、まだ午後の始業時刻には少し余裕があったので、空港ビル最上階の新しい展望台に登ってみることにする。木板のベンチに腰かけて、離陸して行くいくつかの飛行機を数えながら、誰が乗っているにしろ飛び立つ飛行機を見あげる際には感傷を伴わずにはいられないものだと一人頷いてみたり。展望台から地階のモノレール乗り場まで、ショッピングモールの賑わいぶりを確認しながらエスカレータで順々に降りていく。途中の階で、自分の前に立った小さな男の子がエスカレータから降りられずにジタバタ足踏みし始めたので抱きかかえて降ろしてやる。その母親はというと、まるきり知らぬフリで先にエスカレータを降りてしまい、周囲を眺め回してから後ろを振り返って、オレさまとその子の様子を見とめて瞬時に事の次第を理解した感じ。いきなり子供の頭をパシンと勢い良く叩いた。唖然とする。「打ってはいけませんよ」 と子供の頭を撫でてみたものの、母親はこちらを無視したまま息子の手を引いて足早に去ってしまった。帰りのモノレールで考え込む。