もの心ついた頃から、いつかこの場所を借りてゆっくり泣こうと、手頃な壁を見つけてはそう思うことがしばしばだった。今朝も、突然5時に電話で叩き起こされて実家に向かう途中の 「ほか弁」 の裏の路地を歩きながらそう思った。実家に立ち寄り、さらに用件を済ませてみたら、さすがに規定の出社時刻を過ぎてしまっている。せっかくなので午前中はこのまま半休をもらって、上野の国立博物館に行くことにする。
レオナルドの 『受胎告知』 は長いこと自宅のパソコンの壁紙にしていたくらいなので、実はもう見飽きていたが、本物はアウラが違うのだと見てきたようなことを言ってみたり。20分程度待たされたが、それでも空いているほうだったのに違いない。開催終了間際で憧れのマリアに会えてよかった。右腕が長すぎても大丈夫、ちゃんと右斜め前方から画面を見守っているからね。牛歩作戦にも限界があり、もう一度、入り口付近に戻って列に並びなおそうと思ったら、再入場できないように誘導されていた。うーむ。そういうことなら、ベルト収納式ポールパーティションに齧りついてでもあの場に居座ればよかった。渋々第2会場へ。「万能」 の天才といわれるレオナルドだが、もともと人間の興味や関心は全方向なのであって、だから知識や技術が細分化されてしまっている現代の社会では誰もが専門分野の選択に迷ってしまうのだ。本当は誰もがレオナルドのように自由に知識欲や探究心を満たしたいと感じているのだけれども、悲しいことにその情報量は、いまでは一個の人間の人生には膨大過ぎる量になってしまった、そういうことなのかも知れない。あるいは、それを言い分けにして自らを束縛するか、果てしなく脱線し続けるかの違いかも知れない。しかしレオナルドを徒に褒め過ぎてはいけない。「万能」であることを特殊な能力として選り分けてはいけない。いま我々は第2第3のレオナルドを必要としている。
そういうわけで午後から出社。定時後には職場の飲み会。突然のトラブル対応のために出席が1時間ほど遅れたが、駆けつけてすぐにビールと焼酎をがぶがぶ飲んで、食べるものを食べた後はすっかり追いつく。残りの時間は、以前に 『妖魅変成夜話』 をくれたS田女史を捕まえて、コミックやブンガクについて話し込んだりして過ごす。