午前中はブログの更新など、いろいろ慌しくしていた。午後から外出。『サラブレ』 を買おうと駅前の書店に寄ってみたが売り切れ。別の駅で貸本屋に寄って、借りていた本を返し何も借りずに店を出る。池袋PARCOの書店にも行ってみたがここにも 『サラブレ』 は無し。うーむ。そのうちに約束の刻限が近づいてきたので、有楽町線に乗って市ヶ谷へ。さて次期のPOGの話になったら、ファルブラヴジャングルポケットウォーエンブレム、これらの種牡馬のうちどれを中心に推そうかと悩んだり。TAD氏との約束は18時だった。

店を予約してくれたのはTAD氏の弟君の張飛氏で(最近はこんなときにも ”全弟” なんていう言葉を使わなくなったな)、市ヶ谷駅釣堀前の 『嘉多蔵』 という居酒屋。もとは食堂だったそうで、張飛氏はその昔から通っていたらしい。10分前くらいに店に入ってみると、そのすぐ後にご兄弟二人も到着。やあ、どうも、などとやり取り。

何しろ焼酎の銘柄が沢山あるお店なので、さあどれにしたものかと分厚いメニューに手を伸ばしかけたところ、TAD氏が喉が乾いているというので、じゃあ最初は皆でビール、ということで通りがかりの店員に声をかける。張飛さんが3人の分をまとめて注文してくれたのが 『八海山ヴァイツェン』 とかいう飲み物で、日本酒か! と思わず右手を挙げそうになったが実は地ビール。1年ぶりの再会からわずか5分後、最初に特筆すべき事項に遭遇した瞬間である。

刺身三点盛、牛スジ煮込み、月見つくね、山芋さくさく焼き、地鶏ごま揚げ、カレー味のゴーヤのフリット、水菜のサラダ、セロリ、島らっきょう、手羽先餃子、カニみそスパゲティ、ねぎま、タマゴ焼き、うーむこれ以上思い出せないが、これらの酒菜を何回かに分けて注文したのに違いない。飲み物は2杯目からは、オレさまとTAD氏とは焼酎ロック、張飛氏は日本酒。2杯目を飲み始めたあたりで、張飛さんの奥様のこあらさんが合流。

誰だったか、煎茶の名人で 「茶席でする茶の話など知りまへん」 と言った人があったが、自分は酔うとお酒の話をついしたくなる。TAD氏も張飛氏もウィスキーをよく飲まれると記憶していたので、蒸留酒派か醸造酒派かという話を切り出しつつ、ああそういえばと、去年もモルトウィスキーの話をしたことを思い出していた。あのときいろいろ教えてもらったはずなのに、自分はすっかりシングルモルトとピュアモルトの意味の違いなど忘れてしまっている。

競馬の話が思いのほか弾まない。今期のPOGの話をすれば明日のオークスダイワスカーレットが回避してしまったことを思い出し、来期のPOGの話をすれば 『サラブレ』 が売り切れていたことを報告するばかり。セレクトセール組もいよいよ狙い難くなってきましたねと言いかけてやめたり、マル父をリストからはずすのも面白そうだと言いかけてやめたり。POGを継続すべきかで迷うような自分にはもう語る資格がないなどと、今になって思えばそんな遠慮こそ要らなかったと思うのだが、とにかく口ごもるばかり。逆に明日は一緒に府中に行きませんかと思いがけなく誘われて激しく心を揺さぶられたのだが、同時に妻とのつまらない約束まで思い出して煮え切らなかったり。グラスの縁に舌先を乗せながら、胸中では甘く懐かしき愛と忍耐と罵倒と反省の日々が激しく妖しく渦を巻き続けていた。

POGの話のついでに山下書店の話のついでにキイロイビルの話のついでにドンチャックは何科の動物かという話、それから島に酒蔵が多いのが不思議という話のついでに八丈島の幻の焼酎の話、サグラダ・ファミリアとゴルフボールと教会の地下にあるはずの秘密のロケット噴射口との関係の話、自転車に乗ったTAD氏が突然消えた話、そのまましばらく自転車に乗ったTAD氏が突然消えた話、気持をあらためて、こあらさんとジャック・デリダの関連性の話……など、順番は違っているかも知れないが、とにかく思いつくままに話題は展開する。

張飛氏はクラシックカメラ事情に明るい。カメラには、現代では環境だの採算だのの問題から作ることが許されない高性能の部品もあるらしく、だから古いカメラを持ちたがる人は絶えないのだそうだ。我々はつい、全てが未来に向かって成長していくものと考えがちだったりするが、新しい機械が必ずしも古い機械より性能が優れているとは限らないという事実に、今さら目からウロコが落ちるような新鮮さを感じつつ、進化とは即ち適応することではなかったかと思い出してみたり。

カレーライスを食べるときに、皿上のご飯とルーの配置はどうあるべきかという話もした。これにはさまざまな見解があって良いわけだが、もしかすると縦に長いと思っていた唐揚弁当においても、ご飯を手前でなく右か左かに配置して食べる人がいるのではないかという閃きが、一瞬脳裏に浮かんですぐに消えた。そういう人に会ってみないうちから人生を語ることは許されないのではないかという反省も、一瞬脳裏に浮かんですぐに消えた。

2件目には、橋を渡って市ヶ谷駅近くのカラオケに入った。TAD氏はビートルズの『Across The Universe』を歌った。酔って聴くと格別に泣けてくる。その後には一転してシャネルズの 『ランナウェイ』 など歌うので、他のメンバーは自然にコーラスでバックアップ。極め付きの 『たたかえ!キャシャーン』 にもぐっときて、やはり我々はシンクロ率が高いことを再認識する。張飛氏は艶のある低音で何でも歌うとさまになる。アリスならチンペイ派で、『走っておいで恋人よ』 など聞かせてくれる。うーむ。これは、ほろ苦い記憶がいろいろ呼び覚まされる。せっかくなので 『チャンピオン』 のときにはベーヤンのパートを担当させていただく。ささきいさおの 『真っ赤なスカーフ』 は泣けた。正直なはなし反則。兄弟二人とも歌い慣れている。しかし、特筆すべきはこあらさんである。例えば 『Saving all my love for you』 を普通に歌いきってしまう。恐るべし。いままでいろいろな在野の人々の歌を聞いたけれども、彼女の歌唱力はとりわけ抜きん出ている。うーむ。最初は1時間程度のつもりが1時間延長。終わる頃には23時30分を回っていて、慌てて地下鉄に乗って帰ってくる。うーむ。