『阿片の中国史』 を読む。分かり易くまとまっている。『肉食の思想』 を読んだ後だったので、欧州列強のアジア観というものがより生々しく伝わってきた。戦闘の内容というよりも事件の本質という点で、アヘン戦争は過去のどんな紛争よりも凄惨な事件だったのではないだろうか。

確かに阿片を吸ったのは中国人である。吸うほうが悪いといえば、それまでのことのようにも思われるが、しかしそういう言い方をすると、お酒を飲んで酔い潰れたのは彼女ですから、というような暴行犯達の言い分まで通ってしまうことになる。飲んでいる横から、グラスの底に手を添えたり、注ぎ足したりするその後ろ姿には、間違いなく悪魔の尻尾が生えているのである。

けれども互いにその異様さに気がつかない場合もあるかも知れない。もしかすると、いま現在も我々は何らかの形で、会社や、学校や、遊技場や、病院で、阿片におぼれる中国人の立場に置かれているかも知れないし、阿片を売りつけて平然としているヨーロッパ人の立場にあるかも知れない。そういうことを考え始めるとキリがないわけだが、それゆえ人間の心の中のひび割れた水瓶は、幸福感では簡単に満たされない代わりに、自制できないことへの自己嫌悪でいつもいっぱいなのである。

それにしても、ざっと200年もの間、中国大陸を蝕み続けた阿片を、中国共産党がわずか3年で一掃したという話には驚かされたな。