定時後、さっさと退社して丸の内まで移動し、東日本鉄道文化財団主催の美術イベントに参加する。講師が高階秀爾で、司会がNHKの国井雅比古氏(例の 『プロジェクトX』 の)という感じ。初めて実物を眼にする高階秀爾は、眼光鋭い人相で黒づくめのスーツ姿、一度はやはり……と思ったけれども、ひとたび声を聞けば人の好さが窺えて安心する。百見は一聞に如かずということか。大胆かつ誠実な批評家で、近頃オレさまはこのオヤジにメロメロなのである。『ルネッサンスの光と闇』、『日本近代美術史論』、まだ読んでいないが名著と謳われる 『ピカソ剽窃の論理』 などエキサイティングな著作が多数、現在、大原美術館の館長であるが、そういえば、東京国立近代美術館で開催中の 『モダン・パラダイス展』 にはまだ行っていなかったことを思い出したどうしよう。

東京駅の丸の内線ホームで、さりげなくハイヒールの踵を踏み潰して地下鉄を待つ女性がいた。艶かしさにうろたえる。講演会の最後に、司会の国井氏が 「信仰の世界よりも美の世界に人間を救う力があるのではないか」 とコメントされたのだが、その言葉を聞いて、そうだったか、と気づかされた。自分も魂の救いのようなものを求めているのかも知れない。