『串政』 を出てすぐに、TAD氏にお土産を渡そうと思いついたので、雨の中を無理を言って我が家のそばまでご足労いただいた。玄関の呼び鈴をピポピポ押しまくって妻をたたき起こす。目をこすりながら妻が出る。

「TAD氏が帰られるのだ。土佐で仕入れてきたカツオのタタキを持ってきなさい」

急げと妻に命じると、妻は動揺しつつ慌てて台所へ引き返し、スリッパの片方を持ってきてオレに差し出す。

莫迦、これじゃない!」
と妻を厳しく叱り付け、玄関にあったサンダルの片方を手にとり、雨の中で待っているTAD氏に示しながら、「生姜やニンニクでも良いですが、ぜひ山葵醤油でご賞味下さい」 と、遠慮するTAD氏の鞄に無理矢理にサンダルをねじ込んだ直後に、はっと己の重大な誤りに気がついて、後ずさりしはじめたところで目が覚める。

夜中の2時だった。布団もかけずに板の間で大の字になって寝ていた。風邪引いちゃうよ、とかブツブツいいながら寝巻きに着替えて、寝室のベッドに入る。

再び目が覚めてみたらひどい二日酔いだった。しまったと思う。如何してよいか分からないでうろうろしたり、横になったり、またうろうろしたり、吐いてみようか、と妻に相談しつつ実際にトイレに入ってみて、しかし何もせずに出てきてみたりする。頭が痛いし、気持が悪い。どうしよう。今夜も飲み会なのである。こんな状態では行かれない。いや、救急車は呼ばなくていいから。しかしこんな状態ではダービーだって観られない。きっとゴール手前で腰が抜けてしまうに決まっている。いや実際もうすでに昨晩のお酒が腰にきている。

頭を抱えながら、テレビを点けてダービーを観戦する。アドマイヤメインは出足が悪かった。最初のコーナーに届くところで先頭に立つことができたが、こちらが期待したような大逃げはせず、後続を引き付けた形でのろのろと4コーナーまでやり過ごした。何を考えておるのかさっぱりわからぬ。坂の手前でもうメイショウサムソンがすぐ隣にいたので、もはや直線の追い比べでは勝ち目もなく、頑張れるだけ頑張って2着。うーむ。何かが違う。何となく不完全燃焼気味なのは、”はらはら” する場面がひとつも無かったからである。何のための逃げ馬か。

朝方は雨だったはずだが、いつしかすっかり空が晴れ渡っていた。府中にいるはずのTAD氏に電話して、昨日のお礼とダービーの感想など伝える。

さらにオケラオーにも電話する。オケラオーはすでに酔っていた。ジャリスコライトを本命にした馬券を、安いカレーライスなら200杯も食えるほど投票したのち、スタートと同時に缶ビールを開けて飲み始め、それからわずか20分の間にさらにウィスキーと焼酎をちゃんぽんしてすっかり酩酊していた。こちらの自慢と不満を一方的に伝えて電話を切る。電話を切ってから、思いやりが足りなかったと反省する。

しばらく庭の紫陽花など眺めていたら、妻が 「何か忘れてやしませんか」 とオレさまの左腕に噛み付いてくるので、はっとする。そういえばこのところの忙しさにかまけて、妻の相手をほとんどしてやれなかった。すぐに首輪を付けて、外に連れ出してやる。少し散歩でもさせれば気が済むだろう。行き慣れた喫茶店に入って、お腹に優しい抹茶オレなど飲む。ずっとこういうのが飲みたかった。

18時に池袋で待ち合わせ。また『串政』。オケラオー、山ちゃん、NOB、YOUちゃん、オレさまの5名で、近況報告会。オレさまはのっけからウーロン茶を飲ませてもらう。さらに串キャベツをバリバリ貪る。さらに5〜6杯、誰が何と言おうとウーロン茶。さらに、レバー焼きをむしゃむしゃ貪る。最後に酎ハイをちょっと飲んでみたら、たちまち気分が悪くなった。