妻はパートを休んで、OL時代の友人と一緒に、東京国立博物館へ行って来たらしい。特別展の開催中だったようで、オレさまがヘトヘトになって玄関まで帰ってくるなり、最澄だの天台宗だの騒ぎ立てながら、パンフレットをひらひらさせている。なるほど、この聖観音菩薩の腰のくねり具合は大層なまめかしいね。

しかしながら、どちらかといえば空海派のオレさまは、弘法大師がいかに天才であったかについて、中国で阿闍梨位の灌頂を受けたのだとか、5つの漢字を一度に書くことができるので通常の5倍の速度で写経ができるのだとか、シャアよりすごいとか、讃岐平野のあちらこちらに溜め池を掘らせた話や、そのうちのひとつに落ちて以来、水に濡れるとパンダに変身してしまう奇病に罹ってしまったのだとか、いろいろ語りながら妻が用意してくれた夕食の豚の生姜焼きに齧りついたり、箸を止めて 「食うかい?」 と妻に勧めてみたりしたのだが、そうしている間に妻は、友人が結婚を考えておりその相手というのが旅行が好きな人でなかなか良い人らしいのだとかいう話をずっとしていた。