午前4時起床。緊張しているので眠くはない。病院から指示されたとおりにジュースを造る。
まず1リットルのぬるま湯で粉をよく溶かし、さらに1リットルの冷水を加えて2リットルに薄める。
温度が無いと溶けないし、冷たくないと不味くて飲めないらしい。

飲む前に、寝室で熟睡中の妻を起こして居間へ呼び、そばにいてもらう。
ストーブの前で野良犬のようにまた眠り始めた妻の横で、副作用を警戒しながらまずゆっくりと、
コップに1杯飲んでみる。案外飲み易いじゃねえか。テレビで 『グラディエーター』 を放映して
いたのでそれを観ながら、時計も見ながら、15分に1杯くらいのスピードで薬を飲み続ける。

1時間が過ぎる頃に、イベントは始まった。それから何度もトイレに行く事になったが、
思ったほど辛くなかった。結局、500mlを残して、それ以上薬を飲む必要を感じなくなった。
気分はとても爽快だった。オレさまは覚醒したのである。

すでに6時半になっていた。妻を正式に起こし、NHKのニュースに耳を傾けつつ、
パソコンでメールをチェックしたりしつつ、ぼちぼち身支度をはじめて、8時より少し前に
妻と一緒に家を出る。もちろん会社は休むわけで、8時30分頃に病院に着いた。
予約した時間は9時だったので、待つあいだに受付で渡された問診票にいろいろ記入する。

内視鏡室の待合には、オレさまのほかにも患者が、若い女性が一人と、老人が一人いた。
その他には、退屈そうな受付の女性と、退屈そうな妻がいた。妻は椅子に腰かけて、
病院が作成したらしい内視鏡検査のパンフレットを眺めていた。足をブラブラさせるのを
やめるように注意しておく。

患者と思しきご老人とご婦人は、黙々と問診票に記入している。問診票はいろいろ聞いてくる。
緑内障を患っているかとか、血圧は高いかとか、子供の頃にカエルのお腹を破裂させたことは
あるかとか、好きな食べ物は腸詰め以外では何かとか。

やがて刻限に達すると、予約していたとおりに名前を呼ばれた。オレさまは看護婦に誘われ、
奥のロッカー室で、とりあえず貴金属をはずすように指示された。例えば指輪をはずし、
例えば財布もロッカーに預けてしまう。ホバーパイルダーも、ジェットスクランダーも、
ロケットパンチもはずす。そうして戦闘能力を失ったところで、Tシャツの上から着物をはおり、
後ろに穴の開いた紙製のズボンを穿くように促される。
看護婦はズボンの穴に腕を通して見せてくれた。

いよいよ実感が湧いてきました。

とりあえず着替えたその状態で、診察ベッドに腰かけて深呼吸し、看護婦の質問を受ける。
今朝トイレには何回行ったかとか、そのときどんな感じだったかとか。
これでお酒でもあれば、きっと楽しく会話できたに違いない。

それからいよいよ診察室へ連れて行かれる。血圧を測り、鎮静作用のある点滴を打たれた。
意識はある。緊張してますねと看護婦に見抜かれる。医師に症状を聞かれたので答えると、
「何も無いと良いですねー」と明るく慰められた。検査開始。医師は世間話をしていたが、
そのうちに 「さあ終点に着いたぞ」 といってモニタを指差した。へえ、これが。
なるほどこうなっていますか。医師は内視鏡をゆっくり引き戻しながら、要所要所で
解説をしてくれる。右手に見えますのが東京タワーでございます、高さは333メートル……。

検査の結果、異常は見られないとのことだった。
「検査はだいぶ痛いと聞いていましたが、たいしたことありませんね」
とオレさまが、後出しの強がりを言ってみせたりすると、医師はハナで笑いながら、
人間の腸には3つのタイプがあってね、あなたの場合はBタイプだったから、
と適当に説明してくれた。帰ったら、ブログのプロフィールに 「Bタイプ」 と書き加えて
おこうと思ったりする。

鎮静剤のせいかふらふらするので、看護婦に支えてもらいながらベッドにもどる。
そこで1時間ほど寝ているように言われた。奥様を呼びましょうか、と看護婦が気を
利かせてくれたつもりのようだったが無用と断る。どうせ妻は待合室にじっとしていない。
お腹が張って、キリキリ痛む。検査を受ける前のほうがまだ健康だったような気がしてくる。

1時間後、会計を済ませて病院を出る。さらに1時間ほどの間は、お腹が痛かったが、
妻に誘われて回転寿司屋に入る。5皿くらいを根性で食べた、というより欲張って食べた。
帰宅して、こたつに横になって本を読みはじめたら、いつの間にか眠ってしまった。
へんな一日だった。