節分だからいろいろやらねばならぬはずなのに残業。
やっと帰宅してみると、玄関から何から、煎り豆が散乱している。
本気で豆粒を撒き散らしやがったか畜生め。オレさまもやりたかったぜ。

さて食卓へ躍り出れば、予想どおりに皿の上、”一心白道”の入れ墨の、
太助のちょん髷見た様な、目にも鮮やかな太巻きが、裳裾をそろえて待ちぼうけ、
何も言わずに鷲掴み、明後日の方角に向き直し、いざ黙々と食べる食べる食べる……。

妻はその間漠然とテレビを眺めていた。
恵方巻き。貴重な夫婦の会話の時間を奪ったのはこの近頃の不可思議な風習である。
やっと1本を食べ終わってから 「これ美味しい太巻きだね」 と感想を述べると、
妻は元気な声で同調し、それから今日あったことを弾丸のように喋り始めた。
深夜2時まで。