夜中に地震があったが、病院からの連絡もなく、静かな朝を迎えた。
元気に出社する。朝から晩まで、中断していた開発作業に没頭する。実に捗った。

病院に寄る必要があるので、定時で退社しようと荷物をまとめていたら、
自宅の妻から電話。病院から連絡があって、すぐにの来院してほしいとのことらしい。
胃液がじわじわと沸き立つのを感じる。

とりあえず病院に電話すると、受話器の向こうで看護婦さんがすっかり疲れきっている。
重い足取りで病院へ急ぐ。職場から病院までは急いでも1時間くらいはかかる。
地下鉄で移動している間、吊革を全部引き抜いて片端から闇に放り投げてやりたい
気分を堪えながら。どうしたら母に落ち着いた、地に足の着いた入院生活を送らせる
ことができるのかを一生懸命に考えた。考えれば考えるほど情けなくなるばかりだった。

病院につくと、すでに母は身支度を済ませて、休憩室に座って待っていた。
勝手に退院を決めてしまったらしい。医師がやってきて事情を説明してくれた。
万全とは言いがたいが、通院治療もやむを得ないとあきらめたらしい。
「医者が匙を投げる」 とはこのことか。しかし学校で習ったのとはちょっと違う。

今日ほど己の無力を思い知らされたことはない。
処方箋の説明を受け、次の診察日を予約し、母の荷物を両手にかかえて帰る。
夕方から吐き気が止まらない。たぶん胃に3つくらいは穴が開いていると思う。