左奥歯の噛み合わせが悪いようでときどき口の中を噛んでしまう。ちょっと痛い。
もう1年くらいずっと気になっていたのだが、もう100年くらいずっと気になっ
ていたような気がする。いやもう1000年前に風化の始まったピラミッドの石室
でミイラだったときから、ていうか1億年前の白亜紀パンゲア大陸の裂け目で
バクトロサウルスに噛みついたときから、ずっと、ずっと気になっていた。
しかも、いよいよ口の中を噛んでしまう頻度が高くなってきたような気がする。

本当はこのまま老いて歯が自然に抜け落ちるまで我慢するつもりだったが、
気が変わって歯医者に行くことにした。早速にも適当な歯医者に電話してみたら
今日の午前中に予約が取れるということだったので、職場へ電話して午後から出社
することにさせてもらう。

佐野元春に似た歯科医の黒縁メガネにむかって大口を開けて見せたところ、
一番奥の歯は 「親知らず」 だと診断された。

そんなの息子の僕も知りませんでしたよ!

抜歯を勧められたが気が進まない。保険はききますか、と質問してみたところ、
勿論だという。オレさまが考え込んでいると、それでは型を取って説明しましょう、
ということになって左奥上下の歯型を取られた。じっとしているのが嫌いなオレさま
だが、これが一番やってみたかったことだったということに気がついた。
コピック (歯型をとる歯科材料) が固まるあいだ、辛抱強く口をあけて宙を眺め
ながら、親知らずと呼ばれる問題の奥の歯と、永遠に離別することを決意した。

午後から出社。今度の土曜日に親知らずを抜くことを誰かに話したいのだが、
事務に追われてなかなか話す機会がない。それでも、ときどき暇を見つけては、
目につく誰かをつかまえて事の次第を説明したりした。