昼休みに、2003年生まれの仔馬達のリストが登録されたEXCELシートを、
つらつらつらと眺めつつ、注目の肌馬などマウスでチェックしていたら、
珍しくひょっこりと、M川女史がお茶菓子を持って現れた。

次期POGドラフトのマル秘ネタが欲しいというのなら赤本でも買いなさいと、
アドバイスをするつもりだったが、そうではなくて、実は今週末のダービーの日に、
府中競馬場の特別席に招待されているのだという。いったいこの女性は何者か。

招待してくれた方に失礼なので、ダービーは真面目に検討して臨みたい、
ついてはダービーの展望などについて、クラシック戦線に詳しいオレさまに教えを乞いたい、
手ぶらではとても敷居が高く思われたので、職場の人から頂いた新潟土産のお菓子を持って
参りました……そういうことらしい。

まあ、本人にやる気があるのなら教えぬものでもない。
ただし言っておくが、オレさまのダービー予想はとても厳しいよ。

まずスタートだが、ディープインパクトは必ず躓くだろう。クシャミをするからだ。
オレさまがスタート直後にディープインパクトのウワサを必ずするから、
間違いなくクシャミをすることになるだろう。そして躓く。
そういうことでディープインパクトは最後方からの追走になる。
オークスシーザリオよりも、もっともっとヤバい状況におかれることになるだろう。

逃げるのは、ブレーヴハートである。ダービーで逃げるには勇気が要るからだ。
しかーも、デザーモ騎手は大胆不敵かつ意外性のある騎乗ができるジョッキーだ。
逃げて世間を驚かせて、あっさり沈んで、しかも元気に帰ってくることができる男だ。
そのすぐ後ろをニシノドコマデモが追いかける。これは、どこまでも追いかける。
アドマイヤフジが3番手だ。福永祐一騎手はシーザリオでヒヤヒヤした経験から、
なるべく先団に取り付こうとするだろう。そして皐月賞2着のシックスセンスが4番手。
これは騎手が四位だから当然である。どうでも良いことだが、そのすぐ後ろに、
シャドウゲイトが影のごとくつき従う。これら5頭が、運命に急き立てられるように
馬群を引っ張っていくだろう。したがってペースはハイペースになる。
もちろん、これらの馬達は皆、直線で息が切れてしまい、勝負などどうでも良くなって
最後はのんびりとゴールすることになる。

雨が降るだろうから、あまり後方にいては追い込みが効かなくなるのも自明の理だが、
幸いなことに、騎手の名前のおかげでアドマイヤジャパンは中団を構成する馬群の先頭
あたりに紛れ込めるだろう。マイネルレコルトもそのあたりにいる。オレさまが後藤を
応援する限り、その位置をキープさせずにはおかない。安藤騎手は、ディープインパクト
が最後方になったことを知った時点で、相手をマイネルレコルト1頭に絞るだろうから、
ローゼンクロイツマイネルレコルトのすぐ後ろ、絶好の位置を走るはずだ。

ダンツキッチョウは吉兆を占う上で、中団の馬群の最後方か、追い込み勢のうちの先頭か、
とにかく微妙な位置取りとなるだろう。単純に騎手の性格から、ペールギュント小牧太
コンゴウリキシオー池添謙一は、ともに追い込み組にいるだろう。大ケヤキあたりから
ビュンビュン加速したらさぞかし気持ちが良いだろうなあ、などと妄想しているはずだ。
ダンスインザモアも追い込み組。なぜならば蛯名騎手には出遅れ癖があるからだ。
その他の馬達も追い込み組になるのだが、それらは追いかけるだけで精一杯だからだ。
とにかく、そうした馬群のさらに後ろの最後方に、大本命のディープインパクトがいる。
オーロラビジョンを見上げるファンはどよめくだろう。
失神する者は千人、失禁する者も千人、間違えて馬券を捨ててしまう者は五千人、
それを拾う者はわずかに二十四人だろう。

しかし、武(調子に乗りやすい)豊は慌てない。福永祐一シーザリオでできたことが、
ディープインパクトを操る自分にできないはずはないと信じている。
しかも、長くて広い直線を持つ府中コースである。なにをジタバタする必要があろうか。
とにかく、直線でスパッ、スパッ、スパッと通り魔殺人みたいに、まとめて薙ぎ倒して
しまえばよいのだ……そういう狂気が武(調子に乗りやすい)豊の心に本日今夜から
すでに芽生え始めている。実に危うい存在なのだディープインパクトは。

しかし、やっぱり勝つのはディープインパクトなのである。
どうして勝つかは神のみが知る。そこまではオレさまといえども予知できない。
とにかくそうしてレースが終わった直後に、

「やっぱ強いよ、マジ強いよ、化け物だよ」

と府中競馬場で現場を目撃した十数万のファンの全員が、
歴史の証言者を自負しつつ、その場で携帯電話で友達や家族に報告するのである。
間違いない。