お湯に浸した脱脂綿で全身を梱包されているような陽気。とはいえ、こういう天気は嫌いではない。よく寒い国で暮らす人々の表情からは思索的な印象を受けるとかいう話を聞くが、自分の場合はむしろ炎暑に放り込まれたほうが哲学的な気分が盛り上がる。ガンジス川の夕焼けやオアシスの月夜を想起するのか、あるいはかつて訪れた炎天下の法隆寺境内を無意識的阿頼耶識的に思い出しているのか。まあいいか。

「一筋縄ではいかない」 という言葉は、主に難儀な状況を表現するときに使う言葉だけれども、命綱は沢山あったほうが良いわけだし、生態学的にも多様性を維持するためには多様性が必要だとか言われるし、情報はたくさんのシナプスで複雑に結ばれたほうが有効活用し易いことなども思い合わせれば、むしろ良い意味で使いたいよね、と職場の仲間に同意を求めてみたところ、皆うんうんと適当に聞き流しているので、最後に 「なかなか一筋縄ではいかないね」 とコメントしてみたところ、これはまずまずの感触だった。

このネタを完成させたいという気になったので、今度は妻を相手に、「一筋縄ではいかない」 という言葉は……とやってみたら、つまり、ロープ1本で捕まえきれない犯人のことでしょう、と明解を与えられてしまって二の句が告げなくなってしまった。一筋縄ではいかない。